「ねぇ…ケイゴ」

その声は、まるで相手に届くかのように空に吸い込まれた。

「ケイゴ…ケイゴ……」

愛しそうに名を呼ぶ声。

の声。




◆ネガイゴト◆



「なんだよお前、鼻真っ赤じゃん」

空を仰ぐに近付くのは跡部景吾。

「…もう…冬だもん。寒いもん」

「寒いからってソレはねぇだろ」

クックと笑い、に着ていた上着を投げた。

「跡部くん?」

「着てろよ」

「でもでも、跡部くん寒いでしょ?」

「お前の寒そうな顔見てるほうが寒いんだよ」

「…なにそれ」

クスクスとは笑った。
声だけで笑った。
瞳は…うつろなまま…

寒さが増すにつれ、は口数が減り、そして空を仰ぐようになる。
季節が、思い出させる。
大切な人を失った日のことを――…

「なぁ…」

跡部はこの日、決意していた。
これはの心の傷を抉るような行為だとわかっていても、それでも実行することを跡部は決意していた。

過去にとらわれている
後ろを向いたままの

このままでは、が駄目になる。

それは誰しもが思っていること。

でも

誰もの顔を前に向けることはできなかった。

ケイゴという人物はその役目を鳳に託した。
『自分を忘れること』で、を解放しようとした。
が、逆にそれはをとらえて放さない。

『いつか』真っ直ぐ前を見れるようになってほしい。
そう願うだけではは動かない。

『誰か』がを無理矢理にでも前を見るキッカケを与えないと駄目なのだ。

例えるなら、鍵のかかった鳥かごの鍵を壊して、ソコに出口があることを鳥に教えてあげなければならないということ。

でもその役目を果たすにはは、覚悟がいる。

鍵を壊すのに自分がケガをするかもしれない。鍵を壊すのに力を入れすぎたら鳥かごごと壊れるかもしれない。
出口を教えても、鳥に手をつつかれるかもしれない。鍵をあけた途端、鳥は遠くへって行くかもしれない。

それでも、やらねば。と思うのはに対する想いがあるからだ。
それに中等部は今年で卒業だ。
ケイゴと過ごした中等部は今年で終わる。
このまま進級しても、『ずっと心はケイゴと一緒。』ではは成長できない。

4月からは高等部。
気持ちの区切りをつけさせるには今がいい。とそう跡部は思った。

痛くても、つらくても…
乗り越えなければならないこと。

「なぁに?」

は跡部の顔をジィッと見た。

「俺の名前、知ってるか?」

跡部はスイッチを押した。

「え? あは…知ってるよ」

の過去へのスイッチを―…

「呼んでみろよ」

「どうして?」

「呼べ」

「ヤだよ」

「呼べって!」

「いーやーっ!」

「俺は『ケイゴ』じゃねぇぜ?」

「…え?」

「俺は『景吾』だ『ケイゴ』じゃねぇよ」

「けい…え?」

「言えよ」

「…ど…うして…」

「景吾って呼んでくれ」

「なんで…なんで知ってるの?」

「……鳳に聞いた」

「ちょっ…」

目が大きく開かれる。
手は口元へ移動し、呼吸が荒くなる。

、お前いつまでそうしてるつもりだ?」

「っ……跡部くんには関係ないよ」

「いつまで『いないヤツ』を想い続ける気だ?!」

の顔つきがかわる。
複雑な表情。

「…いない…とか…いわないで…よ!」

泣くかと思っていた。
でもは泣かない。

「お前がそうやってること、アイツが望んでると思うか?!」

「……うるさい…」

「思うのかっつってんだよ?」

「うるさいっ!! 跡部君には関係ないっ!! 跡部君がケイゴの何を知っているというの?! 望んでるかもしれないじゃない!! 私が忘れたら誰がケイゴのことを想うというの?! 毎日毎日、誰がケイゴのこと想うの?! ケイゴのお父さん? お母さん? 両親だってもう1年以上だよ? 毎日ケイゴのこと思ってないかもしれないじゃない! 誰も…誰も想わなかったらケイゴいなくなるじゃない!!」

キッと跡部を睨みつけてはこう続ける。

「跡部君にはわかんないよ。好きな人に死なれたことある? 会いたいのに、会えない。名前だって呼んで欲しいのに、呼んでくれる声は無い。謝りたい。でも謝ることすらできない。……会いたくて、会いたくて! 会いたいが為に死にたくなることってある?!」

本音を――…
本音を言わせることも必要だと跡部は思っていた。
言うのは痛いだろう、つらいだろう、けれど、言わせて今までためにためた想いを誰かにぶちまけることも必要だろうと跡部は思っていた。

「…幽霊でもいいから会いたくて、会いたくて、会いたくて…」

感情が溢れる。

「私はこんなに好きな人に酷いことをした! なのに何もできてない…!」

「何もって…それは『償いたい』…とか?」

「……っ」

「相手は『忘れろ』と言ったのに?」




パンッ




と、跡部の頬に痛みが走った。

「言わないで…」

殴ったのは
殴られた跡部より、殴ったの手のほうが痛そうだ。

「思い出だけじゃ、生きてけねぇだろ」

という跡部の一言に

「私の心に勝手に入ってこないで!!」

は今までに無いくらいの大声でそう言うと、走り去った。



屋上の出入り口にバサッと跡部の上着が落ちた。










「……は絶対『俺』がなんとかしてやるから」




跡部が空に向かって呟いた。


















ということで、これからガンガン関わりあっていくことでしょう!
跡部様とさん!(きっとね!)

今回跡部様は突然こんな行動に出ましたが、それまでの経緯はイロイロあった…かと(笑)
きっと跡部様はイロイロ考えたのだと思いますヨ!(授業中とかお風呂の中でとか!)
ただ書いてないだけで…!(ダメじゃん!)
ってことで『いつまで続くんだろうコレ…』な感じではございますが、私が書きたいんでぼちぼち書きます。
ではっ