「」
そう呼んでくれたアナタの声が聴こえないの…
少し右下を向きながら微笑んでいたアナタの顔が見えないの…
アナタの顔は、どんどん…どんどん霞んでいく。
アナタの声は、どんどん…どんどん遠くなっていく。
ねぇ、ケイゴ…。
思い出は残ってるの。
でも
アナタだけ、消えていくの。
ねぇ、ケイゴ…。
私、アナタに会いたい…。
◆ネガイゴト◆
心臓が、バクバクいっているのを感じた。
顔が熱いのも感じる。
「……」
そんなことしか考えられない。
「ケイ…ゴ…」
あなたの名前をまた無意識に呟いた。
不安になったり、淋しくなったらいつも名前を呼んでしまうの。
どこからか、返事が聞こえるかも…
そう、まだ心のどこかで思っているから。
本当にね
言われなくてもわかってるんだよ。
『いない』ってこと。
もう、いないってこと。ちゃんと、ちゃんとわかってる…。
会いたくても会えない。
話したくても話せない。
もう、いないってこと。
理解はできてる。
でも
理解したくないんだよ。
矛盾してるってわかってる。
でも
理解したくないの。
理解したからって、どうなる?
私がケイゴを好きという気持ちはかわらない。
会えない。話せない。傍にいない。
だけど、好き。
これだけは、かわらないもの。
ううん。
やっぱり、かわる。
生きていれば、嫌いになったり、もっと好きになったり、イロイロ気持ちはかわるけど
相手がいないと気持ちは募るばかりだもの。
優しい声が好き。
優しい笑顔が好き。
病室で暇だからといってずっと本を読んでいて、その本の話をわかりやすく話してくれた。
私が学校のこと話すとずーっと微笑みながら聴いてくれてた。
悲しいことがあるとなぐさめてくれて。
私の嬉しいことは一緒に喜んでくれて。
いつもいつも、頭を撫でてくれた。
キスする時はまず左頬を触るんだよね? それがなんだかおかしくて、何度かわらっちゃ
った。
繋いだ手は冷たくて、いつも私文句言ってたよね? 「私から体温とらないで」って。
思い出が全て愛しくて
想いは…増していく。
「ケイゴ…」
ねぇ、ケイゴ。
会いたいよ。
もうすぐ2年だよ…
私淋しくて淋しくて、もう限界だよ。
会いたいよ。
「さん? どうしたんですかこんなところで」
こんなところ?
その声に反応して辺りを見回すと廊下で。
一瞬ドコの廊下かわからなくてキョロキョロしてしまった。
「フラフラと歩いて、どうしたんですか?」
「え? 歩い…て…た?」
歩き回っている自覚は無かった。
私…どうしたんだろ?
「さん?」
「え?」
「俺のこと、見えてますか?」
「え?」
そういえば、私に話しかけているのは誰?
私今まで、なにしてたっけ?
「さん!」
「あ、長太郎くん…」
「さん…? どうし」
「なんでもないよ」
うん、なんでもない。
なにもなかった。
うん、なにも。
「長太郎くん、私、わた…し…」
「なんでもないってツラじゃねぇよなぁ」
ドキッとした。
この声に。
「先輩」
私の後ろから聞こえた声。
長太郎くんも「先輩」って呼んでたから、間違いない。
「ったく、さっきも言っただろう」
ビクッと体がふるえた。
さっき、言う?
っ…
「寒そうにしてんなって!」
バサッと今度はコートをかけられた。
「鳳からも言ってくれよ。が寒そうにしてるだけでこっちの体感温度が下がるってな」
「はは。確かにさんが寒そうにしてるのは見たくないですね」
2人の笑い声。
私は――…
「ってと、俺は帰るとすっかな」
「じゃあ、俺も部活行きます」
私は、どうすればいい?
「、一緒に帰るか?」
後ろからそう声がした。
その声にフルフルと首を横にふることしかできなかった。
「先輩…フラレましたね」
「そーだな。じゃあな」
私は跡部くんの顔を見ることができなかった。
なぜだかわからないけど、見れなかった。
「さん? どうしたんです? 帰らないんですか?」
「え? あっ…」
「校門まで送りますよ。あっその前に教室に荷物取りに行かなきゃですね」
「う…ん」
「じゃあ、行きましょうか」
長太郎くんに促され、1歩進んだところで
「あ…」
「どうかしました?」
「これ」
コートのことを思い出した。
「明日にでも返せばいいんじゃないですか?」
「誰に?」
「誰って、跡部先輩ですよ」
長太郎くんは笑っていた。
「あー…うん」
ぶかぶかのコート…。
大きいからちょっと重い…。
でも
あたたかかった…
私はコートをそのまま着て帰った。
跡部くんの香りがほのかに香るコート。
跡部くんは…嫌いだよ。
さっきのこと…で嫌い。
でも
嫌じゃない。
嫌だったらこんなコート脱ぎ捨てる。
ピュウッと
冷たい風が吹いた。
寒くて、ついポケットに手を入れてしまった。
カサッ…
「?」
ポケットの中で何かの感触。
これは…
「紙?」
二つ折りにされた紙。
何かな? って思ったけれど、跡部くんのモノだし。
そう思ってポケットに戻そうとしたとき
『』
という字がチラッと見えた。
次の瞬間、私は自然にその紙を開いていた。
『なぁ
ノックしたらお前の心に入っていいか?』
跡部くんの筆跡なんて覚えてない。
でも、これは跡部くんが私に宛てたものだと、確信できた。
「……ノックしてもだめだよ」
私の心にはケイゴが入っているから。
ノックって!ノックってあんたー!!
と思っているのは私です。はい。
なんかもう語ることなんて無いわ…(いいわけはもうやめるよ…)
ではっ