ずっとずっと愛してるから。


◆はじまり◆


それはいつもの光景。

「樺地」
「ウス」

ただいつもと違うのが……

「跡部ー、樺地も学生なんやからソンナコトにつこうたら可哀想やろ」

ソンナコト→探偵業

「宍戸みたいに言うたら『激ダセェよ』」
「黙れ忍足」

跡部が樺地から受け取ったもの、それは

についての資料。

「天下の跡部様たるもんが、コソコソ女のこと調べとるなんてなぁ」
ひゃっひゃと笑う忍足を尻目に樺地からの資料に目を通す。

。3年。
元・テニス部マネージャー

「……樺地…………コレだけか?」
「…………ウス」

「樺地責めても意味ないで。、人付き合い悪いから調べようにもよう分からん(この俺も名前くらいしか知らんし)」
「ウス」

「なんなんだ? この女」

いつもの跡部なら少しでも気になった女なら次の日には落としている。
その跡部が今回、に限っては遠回しに遠回しに事を進めている。

今回の跡部は変だ。

「もしかして本気なん?」

忍足がつい口を滑らす。

「あぁ?」

「そんなワケないだろ」と跡部は資料にならなかった紙を投げ捨てた。




















「もうすぐ、冬だよ」

可愛らしい声が空に投げかけられ、そして風に流される。

ここは屋上。
そしてこの少女が

今、跡部が最も気にしている少女だった。

はただ立って空を仰いでいる。

その行為は人知れずこの2年間続いていた。

「ねぇ」

は唄うように話しかけるように言葉を続ける。

「…………よ」











「ウワサをすれば、やん」

忍足のニヤニヤした声が跡部の耳に入る。

「ほら、また屋上おるで」

言葉通りに屋上の方へ頭を向けたかったが忍足の言い成りになるようで跡部は聞かなかったフリをする。

「あーあー。あんなことして、うわっめっちゃ危ない」

「…………」

「うわっアレ落ちるんとちゃう? あっあー!」

「うるせぇよ。わかった、見ればいいんだろ。見れば」

なんくなく優越感に浸る忍足を一瞥して、空を見上げた。


コチラ側を向いてフェンスに寄りかかっている少女がいる。
間違いなくだ。

「あれは絶対デコにフェンスの跡ついとる」
「ウス」

忍足と樺地はにたいして興味は無く視線は自然と興味の対象跡部へと移る。

「あとっ」
「……」

忍足が驚いたような声を出そうとした瞬間、素早く樺地が口元を押さえる。

こんな跡部、見たことない。

それが二人の率直な感想。

いつもの毒々しさは無く、ただ純真に見惚れていた。

「なんや、本気なんやん」

忍足が自分に聞こえるか聞こえないかの小声でポツリと言った。



「……っな」

跡部は正直驚いた。

心から女を綺麗だと思ったのは始めてだった。

いつものように性的にイイ女だと思うのではなく
ただもう無心に、綺麗だと――そう思った。

そしてその綺麗だと思った少女は




泣いていた。




忍足も樺地も気付いてはいないだろう。

ここから涙が見えるわけではないのだから。

でも確かに、雰囲気が空気が泣いている。

「…………」

出来ることなら今すぐ駆け寄って、抱きしめたい。

そういう衝動にかられる。

が、できない。

ソンナコトしたら、怖がられて嫌われるのがオチだ。
頭で判断されている。

「樺地。アイツ、何組だ?」

会って話しがしてみたい。
跡部はそう
心から
思った。











突然の来訪者にクラスは色めき立った。
「どーしたんですか?」
「きゃーっ跡部サマだよっ」
「跡部君だーっvv」

と騒ぎの中心にいるのは跡部。
その顔はイライラがちらついている。

「(うるせぇ)、いる?」

跡部の口から出た言葉に一同がポカンとなる。

「いねぇの、いるの?」

正気に戻った一人が慌てて室内を見渡す。
「いないみたいです」
と、すぐに返事が返ってきた。

「ドコいるかわかるか?」
訊きながら
屋上だな。と見当をつけていると

「たぶん、屋上だと思います」
と一人が言った。

「あー。そうかも、ずっとだもんね」

ずっと?

「いつ頃からだっけ?」
「中2くらいじゃなかった?」

中2?

「あっもぅ勝手に話すから跡部クン困ってるよ」
「えーっとですねぇ」

少女達が跡部を囲んでキャッキャと話し出す。

「あたし1年からさんと同じクラスなんですけど、2年の始めだったかな? さん突然喋らない暗い子になっちゃったんだよね」
「そうそう」
「その時くらいから、休み時間とか時々授業中もフラーッとどっかに行っちゃうんだよね」
「何してるのか知らないケド、その場所が向い校舎の屋上なんですよ」

謎が深まる。
なぜ、突然?
なぜ、屋上?

何やら少女達が跡部に纏わりついて話しかけるが
無視し、廊下を歩いて行く。

背後から不満そうな声が響いているが
跡部の耳には入らなかった。





屋上というものには鍵がかかっているのが普通である。
しかし、扉はスゥッと開いた。

「壊れてんのか?」

ニッと笑うと跡部は屋上に踏み入った。

そこは玉砂利が敷き詰められ、周りはフェンス。
そして広がる空。

ただ、それだけ。

年頃の少女が興味を引くようなモノは何一つ無かった。

「……んだよ。いねーじゃん」

そこにの姿はなかった。

跡部はズルズルと座り込み扉に寄りかかって、がそうするように空を見上げた。

ただ空を見るのは何年ぶりだろう?



ゴンッ

急に背中に圧力がかかる。
「?」
誰かが扉を開けようとしているようだが、跡部がいることで開かないといったところであろうか。

「なんでぇ? 鍵なおっちゃったとか??」

扉越しに可愛らしい声が聞こえる。



跡部は慌てて、扉横の梯子を掛けあがり身を潜めた。

なんで、俺が隠れてんだよ

と自分に問いつつジッと扉を窺う。


「せーの」
カチャッ
「うっわわっっ」
べしょっとが転がり落ちてきた。

おそらく、扉に体当たりしてみたら障害(跡部)がいなくなったので、アッサリ開いて転んだのだろう。

「クッ」
思わず跡部の口から笑みが零れる。


「いったーいっなんなのぉ」
涙声のが膝をさすりながら立ち上がる。
長い髪がパサッと肩から流れた。

始めて、ちゃんと顔を見た。

思ってたより幼い顔立ち。
思ったより小さな体。
思ったより……

ヤベェ。可愛い。

跡部がガラにもなく顔を赤らめる。

そんな跡部には全く気付かずはゆっくり屋上の中央まで進み、

両手を空へとかざす。

「……ねぇ」

そして喋り出した。

一瞬、自分に気付かれたのかと思い跡部は焦ったがすぐにその言葉が自分に向けられていないことを悟った。

「会いたいよ」

言葉に帯びた想い。

嫌でも分かる

には想い人がいる。

そして、自分の入る隙間はない。
























跡部が荒れてる。
いつにも増して荒れている。

「…ウス」

あの樺地が近寄るのを躊躇うくらいに。







   「会いたいよ」

その言葉が頭から離れない。

あの屋上で、一人、誰に、想いを募らせる……
想いの先には誰がいる?

俺には気付いてくれないのか?


あの声で、俺の名を呼んだことがあるか?







ガタンッッ

跡部は急に立ち上がると何も言わずに教室を出て行く。
「跡部―授業中ってわかっとる?」
「……」
忍足の問いにも、教師の制止にも耳を貸さず跡部は廊下に消えた。

「あかん」
忍足は教科書を机の上に立て死角をつくると
携帯をいじりだした。
『跡部の余裕が消えたわ』
それは数秒もしないうちに元・テニス部員達へと送信された。






跡部は無意識か意識してか屋上の扉の前に立っていた。

「チッ」

むしょうに苛立ち、乱暴に扉を開けた。

ガンッという激しい音が響く。


「…………跡部…くん……?」


音に驚き振り返った少女と目が合う。

その少女は



   跡部…くん……



そう、少女は言った。
名前を呼ばれたことに、自分の存在を知っていたことに
跡部の心は弾んだ。

「…な…にしてんだ?」

できるだけ優しく、怖がらせないようにして
に近付く。

「…サボリかな」

はへらっと笑った。

「俺も……」



跡部は距離をおいて座りこむ。

はなんでサボってんだ?」

「……」

からの返答がない。
地雷を踏んだか? と内心ヒヤッとすると

「なんでなんで跡部くんが、私の名前知ってるの?」

心底驚いたのか口がポカーンと開いている。

「なんでって…マネやってただろ」
軽くウソをつく。
「ああっそかそっかー。でも私ユーレー部員だったから私のコト知ってる人いないと思ってた」
コロコロと表情を変えて笑う。

どこが喋らない暗い女だ?

「クッ」

再び跡部の口から笑みが零れる。
日頃嘲笑はすれど、めったに笑わない跡部だが、このの前だと自然と笑うことができた。

「びっくりびっくり。跡部くん頭イイからエスパーかと思っちゃった」
どうやら単語を2回繰り返すのがのクセのようで、それすら可愛いと思っている自分に跡部はまた笑う。

の声、オモチャみてぇ」

「はぐっっ」
は急いで両手で口を塞ぐ。

「?」
「うるはかったですか?」
手で押さえられ圧迫された声が聞こえる。
「クッ……ハハッッ」

「んなことねーよ」と跡部は笑いながら言った。

「はぁ、よかったよかった。オモチャみたいにうるさいって意味だと思った」

その言い方が
勘のイイ跡部には
わかってしまう。

「ダレかに言われたことあるのか?」

その問いに

「うん」

素直に頷いた。

「ダレに?」

「好きな人」


たぶん、そうだろうと思っていたが
実際
の口から言われると

心に穴が開いたくらい

イタカッタ。


































***反省***
リンク切ってましたが復活。
文章修正しなかった。もういい。(笑)
この話、ものすっごいオリジナル色強いのですけど、もういい。(笑)
もう、このまま突っ走る。
オリキャラ嫌いな方とかゴメンナサイです。
アコさんもう突っ走るって決めたから!