誰かを『すき』になるだとか思ってなかった。




◆止める者◆




「あーとーべvv遊ぼうよ」

放課後の教室、見知らぬ女が跡部の肩に手をまわし耳元で囁く。

「……気分じゃねぇ」

眉間にシワをよせ、女を一瞥する。
夏頃に何度か遊んだ女だった。

「なんかこの頃、跡部つまんない。どーしちゃったの?」

「……うるせぇ」

今は以前のように毎日違う女と遊ぶということが考えられなくなった。

原因はハッキリしている。

が気になるからだ。

気になりすぎて、余裕がない。



ガタンッ



椅子から立ち上がると
教室から出た。


今日はいるだろうか?
もう放課後だが、いるだろうか?

跡部が向う先は屋上。

キィ……

静かに扉を開けるとそこには二つの人影。



「あっ跡部くんだー」

「跡部先輩……」

鳳長太郎。


思ってもいなかった組み合わせ。


「鳳?」

「あの……」

鳳が言葉を濁す。

そして数秒もしないうちに

「じゃあ、俺は部活に行くので。さんも寒いからほどほどにね」
「…ん。部活がんばってね」

鳳は跡部に会釈すると階段を駆けて行った。



「跡部くん? どうしたの? ぼーっとしちゃって」

が心配そうに跡部の顔を見上げる。

「なんでもねーよ」

跡部はできるだけの優しい顔で微笑む。

安心したようにも微笑み返した。


「鳳と知り合いなのか?」

ポロッと口から飛び出た。

嫉妬心が剥き出しのようで、恥ずかしい気がするが訊かずにはいられなかった。

「長太郎くんとは、ご近所さんなの。幼馴染ってヤツ」

「ふーん」

「長太郎くんがテニスやってたから、マネになったんだよ」

「……もしかして、好きなヤツって鳳?」

「あはははっ違うよぉ。長太郎くんは弟ってカンジかな」

「ふーん」

「なんか今日の跡部くん大人しいね。元気ない?」

「否」

「そっか、そうならいいんだけど。ムリはしないでね」





そこで会話はストップ。

どことなく気まずい雰囲気になり、跡部は屋上から去った。

階段を降りていると

「あの」

声がした。

その声の持ち主は鳳。

「なんだ?」

さ……先輩のことで話があります」

鳳は真剣な面持ちで跡部と向き合った。
















「失礼なことと分かって訊きます。先輩とはどういう関係なんですか?」

ついさっきまで『さん』と呼んでいたのに『先輩』へと呼び方がかわっている。
警戒の証だろうか。

「無関係」

「でも」

「ただの知り合い程度だ。それに元テニス部マネだろ。知ってて当然」

「当然じゃないです。嘘つかないでください」

鳳は視線を落とす。

「なぜ嘘だと言いきれる?」

先輩がマネになったのは俺が1年、先輩が2年の時です。先輩はマネとし
て部活に出たの、1回きりです。それなのに、跡部先輩は覚えていたんですか?」

「……あぁ、悪かった。つい最近知り合った。それだけだ」

「『知り合い』なんですね? それ以上じゃないですよね?」

「鳳、どうしたんだ? さっきから」

「…………すみません……」

深く頭を下げると
「部活行きます」
去って行った。











「一・球・入・魂!」

「フォルト」

「ッハァ…ハァ」

「どうした? 今日はいつにも増して調子悪いな」

鳳はジャージで汗を拭うとまたボールを手にする。

「一・球……………」

「鳳?」

「すみません、頭冷やしてきます」

それだけ言うとコートから出た。




















   ひとりにしないで





「っっ!」

誰もいない校舎裏にうずくまる。

「やっと、やっと笑えるようになったんだ」






   わたしには、あなただけ






「やっと……」

「……跡部先輩……先輩が一番さんの傍にいてはいけないんです」

「どうして……」






   長太郎、に伝えてくれるか?






   ききたくないっ






         悲鳴のような泣き声






「…………どうしてさんばかり、苦しむ」







   ねぇ……。






「跡部先輩じゃダメなんです」


鳳の呟きは誰の耳にも入らず
風に流された。
















***反省***
ビミョに短い気がします。(気のせいではないですね)

さんと関わってませんね。跡部さん…(汗)
そのうちしつこいくらい関りますので(笑)