「あとべくんの す おれたちもまだしらない」
◆ネガイゴト◆
ジローが笑いながら言った。
す?
素か?
脳内でこう変換するのにそう時間はかからなかった。
「跡部、いい加減俺らには気ぃはらんでええよ」
今度は忍足が笑う。
「何の事だ?」
はっきり言って意味がわからない、理解不能だ。
「あとべくん、じぶんでもきづいてないうちに、ひと、とおざけるの。じぶんのからにとじこもってる」
「あぁ?」
「そうやってすぐおこるのも、だめ」
しぃっとジローが人差し指を立てた。
「あとべくん、おうちのかんきょうとかもあるけど、ちっちゃいころからさ」
「周りの大人とかに気ぃつかってただろ?」
ジローの言葉を遮り、岳人が言う。
「がっくん、おれしゃべってる」「ジローは喋んのおせーんだよ。目ぇ覚ませよ」
などと言い合いながら2人は言葉を続けた。
「跡部は跡部である前に『跡部』だから」
「わけわかんねーよ」
「ムッ! じゃあ宍戸が言えよ」
「はぁ? だな…その…『跡部』の家の看板背負ってんだろ。それで、その看板に傷をつけないように今まで生きてきた」
「そうソレ!」
「だから、跡部は自分の出し方、まだ知らねぇんじゃねぇの?」
「だから、『あやうい』の」
困惑する跡部にジローが言う。
「あとべくん、じぶんのからにはいっているから、だから、ひととせっするときに、わからなくなる。はだかのこころにからのままこられてもいたいだけ。からにはいったこころにからをぶつけられたら、われちゃう。だから、あやういの」
「自分、その殻どうにかせんと、ともやってられんで? 今まで何人の女と付き合っても長続きせんかったやろ? その原因も跡部の殻や。跡部が自分を出さんから相手は不安になる、そして不安だから気持ちをぶつけてくる。でも跡部はなんのこっちゃわからんからそれがウザイ。で、終わる」
「ちゃんに本気ならどーにかしねぇとマズイよな!」
「自覚の無い人間嫌いっつーのもタチ悪いよなぁ」
4人はニカッと笑った。
「なぁ跡部、そろそろお前、孵化しろよ」
「孵化?」
跡部の眉間に皺がよる。
「あとべくん、あとべくんにとって、ぼくたちってなに?」
「アァ?」
「なぁに?」
跡部は暫く考えて、ボソッと言う。
「……元テニス部員」
「それだけ?」
「何を言わせてぇんだよ?」
「それだけ??」
「トモダチ。とでも言えばいいのか?」
「……あとべくん、ばか?」
「間違いなくお前よりバカじゃねーよ」
ガスッと跡部の頭にチョップが落ちる。
「ッッ! テメ…岳人!」
「バーカバーカ跡部のバーカ!」
ハァ…というため息と共に
「あかん。バカや。アホベや」
「アホベ!! それイイな!!」
「忍足…宍戸…」
不機嫌な顔になっていく跡部に
「おれたち、あとべくんだいすきだよ」
「…アァ?」
「すきすきだいすき。あとべくんは? すき? おれたち、すき?」
「何言ってんだ? バーカ」
「ばかでもいい。すき?」
告白の嵐を受ける跡部。
その様子を見守る忍足、岳人、宍戸。
「すき? きらい?」
「……」
「どちらかといえば、すき? きらい?」
「……」
「いって。いってくれないと、おれなくよ?」
「勝手に泣け」
「……ひどい」
ジローがしょぼんと下を向く。
「うわーっひっでぇー!! 泣―かした泣―かした、あーとべが泣―かした! 監督に言ってやろー!!」
「うわっ跡部マジ酷いわ。いたいけな少年泣かすなんて」
「ジロー泣くなって、なっ? なっ?」
「……オイ、コラ。ジロー泣いてねぇだろ! 嘘泣きすんな」
「……すき? きらい?」
「ソコに戻んのかよ…」
ハァと跡部がため息をつく。
「こたえてくれないと」
「泣くのか?」
「ううん。ちゅーする。あとべくんにちゅーする」
「……」
「ぼく、あとべくんだいすきだから、ちゅーする」
さすがの跡部も今の発言を無視ではない。
「嫌いだ」
不機嫌な顔をして言った。
「おしたりくん、ししどくん、あとべくんをおさえつけて」
「おう!!」
ムスッと頬を膨らませたジローが2人に指示をする。
2人はノリノリで跡部を羽交い絞めにした。
「テメッ! 離せよ!!」
抵抗するものの2人がかりで抑えられては無駄だ。
「あとべくん、うそはだめ。うそつきには、ちゅう」
「っだ!?」
ちゅーっとジローが跡部に顔を近づける。
「ジロ! オイッ!!」
「ちゅー」
「っっ!! わかーった!! わかった!! 好きだ好き! これでいいんだろ?!」
ジローの顔が目の前に来てやっと跡部がそう言った。
「あとべくん、かお、まっか」
ほやっとジローが笑う。
「うわっマジマジ? おー! 赤!! 跡部照れてんの??」
ぎゃははと笑う岳人。
「照れてねーよ! バーカ!!」
「跡部…照れ隠しが小学生並やわ」
「激ダサ」
「……お前等…………」
「あとべくん、それでいいの」
「……ァ?」
「あとべくん、いま、すでてれたでしょ? それでいいの」
「そうそう! そうやってもっと自分出していけよ。じゃねーと人間失格! なんてな」
「も跡部と同じやないの? なんかの殻に入っとる。殻に殻ぶつけたら割れるやろ?」
「それを長太郎は心配してんだよ」
「あとべくん、にんげんはこわくないよ。ほんとうのあとべくんをだしてもだいじょうぶ。おれたちはどんなあとべくんもすきだから」
プッと跡部がふきだした。
そのままククッと笑い出して下を向く。
「あとべくん?」
「……」
「わらってる。あとべくん。おれなにかへんなこといった??」
「……バカだな、お前等」
顔をあげてフッと跡部が笑った。
その顔はいつもの嘲笑や失笑ではなく
言葉で言うなら
微笑み
その顔をみて、ジローが言う。
「あとべくんのせかいはこれからだよ」
『跡部』として纏っていた殻にヒビが入る。
そこから生まれるのは『景吾』という個人。
友情小説ですか?ココは夢小説のお部屋じゃないんですか? と自分に問いつめたい気分(苦笑)
今回は跡部様かわりましょう編。
跡部様は素を出してないと思うのですよ。いつでもどこでも強がって帝王ぶって。完璧を演出するタイプだと思うのです。
ゆえに、他人との接し方は下手だろうな…と。
完璧な自分を作っているからそれは自分自身ではない。なので「こう」と言われても完璧な回答を探そうとするだろうなぁ。と思うのです。
自分の意見ではなく、模範解答を導くタイプとでも言うのでしょうか?
なので、相手の心には伝わらない。
恋愛は心と心でするものですから、そんなことをしていてはダメですよね。
そんな感じなのです。今回は。
次回からは、少しずつかわっていく跡部様とさん。
お話を進めたいですね。ハイ。