「向日」
そう呼び間違えられること49回。
私中3。氷帝テニス部マネージャーは
1週間前の判断を思いっきり後悔しています。
◆おかっぱパッツンVカット◆
長いサラッサラのストレート。
それが私のチャームポイントだった。
「突然だけどイメチェンするから」
サラッサラの長い髪は夏は暑いのだ言い訳をして
「切ってくる」
と、何故か跡部に宣言して私は部活を早退した。
そのまま美容院に直行したのだけれど
「切ってください。ショートよりすこし長めで」
そう、美容師さんに言ってしまったコトを私は深く後悔する。
だって、ここまで似るとは思ってなかったから。
結果、私の頭は『おかっぱ』
つまりあのみそっこ向日と同じ髪型。
さめてもの救いは前髪がVカットでないこと。
次の日から
「向日」
と呼び間違えられるようになる。
そして今日も
「向日」
背後から声。
この声は
「跡部(怒)からかわないで」
「そーいうなって、仕方ないだろう後姿はウリフタツなんだからよ。双子の弟みてー」
「帝王が聞いて呆れるね、このアホベ」
爆弾、投下。
「ヤられてーのか? このパッツン」
戦闘開始。
「パッツンゆーなっっアホベ」
テニス部というか氷帝学園の帝王・跡部に真っ向から立ち向かえるのは
テニス部のマネージャーであり氷帝学園の女帝と影で囁かれるしかいないだろう。
「まぁまぁ、おちつきぃや」
そしてその二人を止められるのは
氷帝学園の参謀・忍足しかいないのである。
「おっしー酷いんだよーアホベが私をイジメるのー」
「はいはいお姫さんわかっとるから」
「忍足、渡せ。そのパッツンを渡せ」
「キーッッ! パッツンゆーなーっ馬鹿アホベーッッ」
「なーに騒いでんの?」
と、間が悪く登場したのが向日岳人。
「「「あっ」」」
3人の声が重なる。
「(ほんまに間が悪いやっちゃなー)」
「(がががががっがっくん)」
「(新しい玩具)」
「くぉらーっっガックン!! 髪切れって言ったでしょーっっ」
「うわっっ!!」
「向日、跳べ」
「うわわっ跡部!!」
今日も練習とは別に部員の声が学園に響いた。
「だーかーらーガックンが髪切れば万事OKなのよっ」
さながらハブと
「だーかーらーなんで俺が切らなきゃなんないんだよっ」
マングースの戦い。
「私は女の子よ?? 女の髪は命なのっこれ以上短くしろってゆーの?? ガックンは男
なんだから宍戸くらいバッサリ切りなさいよ」
「なんで俺の名前だすんだよ」
「宍戸っお前が切らずに長いままだったら俺に飛び火しないのにーっ」
「はぁっ?」
「宍戸、うるさいっ。これは私とガックンの問題っ!! ガックンが切れば私は呼び間違
えられずに平和な穏やかな日々が過ごせるのよ――――っっ」
キラン☆との手にハサミが光る。
「うわっや―め―ろ―っっ」
「逃―げ―る―な―っっ」
「逃げずにいられるかっっ」
部室内でビヨンビヨンと跳びまわる向日を刃物を持って追い掛け回す女子マネ。
「もぎょがっ」
その二人に寝ているトコロを踏み潰される哀れな芥川。
「芥川先輩! 大丈夫ですか?」
と心配する鳳。
眉間にシワをよせ、青筋が一本また一本と増え続ける跡部。
「お前等、外に行け」
ついにキレた跡部の命令により樺地によって摘み出されるハブとマングース。
部室の外でも、ぎゃあぎゃあと喚き声が響いている。
「うるせぇっ!! もっと遠くでやれっっ」
と跡部が更にキレた。
「……ウス」
樺地がハブとマングースを大空彼方へ投げ飛ばした。
「イッターイッッ女の子を投げるだなんて覚えてなさいよーっカバオめっ」
「っ―――っタイから退けはやくっ」
のおしりの下から悲痛な向日の叫び。
「うわわっゴメンッ」
などとアッサリ素直に退くではない。
「あーらいい眺めvv」
と、馬乗りになるように座りなおす。
「うわっテメ」
「ここなら髪切り放題vvvv」
サーッと顔が青くなる向日。
「ちよぉっちょっと待てっタンマーッッ」
今にも泣きそうな向日。
「大丈夫。切らないわよ。切りたくてもハサミがないもの」
残念そうにが呟く。
「頼むから……抜くな」
「……アンタってホントに間が悪いわねぇ。それじゃ抜いてくださいって言ってるよーな
モンよ」
哀れ岳人!!
坊主で飛び跳ねるのもまた可愛いぞ!!
などと変なナレーションが向日の頭に響いていると
「ちょっと本気にしないでよ?! いくら私でもそんなことしないって」
「よかったぁぁぁ」
あまりにも心から喜ぶので
一瞬、本気で抜いてやろうと思った。
「あの…さ………いつまで乗ってるの?」
下からの不満の声。
「あらガックン。顔が赤いわよ? 照れてるの?」
あらあら、ガックン黙っちゃった。
「もしかして…本気で照れてる??」
「っせー」
普通、年頃の男の子のお腹の上に年頃の女の子が馬乗りになっていれば照れるのは仕方な
いこと。
「あらあらあらあらあらvvガックンかっわいいーっっvv」
「ばっばかじゃねーの?!」
「いっやーっvvかーわーいーいーvvvv」
は悪戯心から向日に体を摺り寄せる。
「うっうわっヤメロッッ」
「っきゃー楽しいー♪」
「っテメいいかげんにしないと襲うぞ!」
その言葉にの表情が固まる。
「ガックン!!」
が向日の胸倉をつかみガタガタと振る。
「ダメーよーダッメー!! ガックンは男じゃなくて少年なんだからそんなこと言っちゃ
ダメ――――!!」
「……ヲイ」
「みそみそ言っていいのは少年だけなんだからーっダメよっダメよっ! ガックンは成長
しちゃダーメーよーっっ」
「コラッ…」
「跡部みたいな女好きになっちゃダメよ! っーか女に興味を持たないで!!」
「(怒)」
「あーでもでも、おっしーとかとくっついてもヤだしーっっ。そう! 少年合唱団でいて
ほしいのよ――っっ」
「(呆)」
「ガックンはいつまでも独り身でいてほしーのーっ」
「あー。ソレ無理」
パッとの手が離れる。
ゴンッッ
油断していた向日の頭が地に落ちた。
「ィッーッ(泣)」
「ぎゃっくん……」
ぼたぼたと涙が零れ落ちた。
「うわっ??」
「ぎゃっくん彼女いるのー?? ヤーだよーっっ」
「うわわっバカッッ泣くなって。彼女なんかいないから」
「びえーっっじゃあスキな人いるんだーっっヤーだーっっ」
「……なんでが嫌がるの?」
「だってーだってー」
ホントはね
この頭はガックンとオソロイにしたかっただけなの。
「同じ髪型だね」ってソレだけでよかったの。
背格好が近いからってココまで似ちゃうとは思わなかったの。
似る≠オソロイ
似てる似てるって双子みたいに扱われるのは不本意。
「、今から言うことよぉーく聞いとけよ? 俺は、嫌いな女には話しかけもしないし、
嫌いな女が上に乗ってたらソッコーで退かすし、嫌いな女が擦り寄ってきても襲おうとも
思わない。言ってる意味わかるか?」
「がっくん??」
「つまり」と向日は上半身を起こす。
の目の前で
「が好き。わかったか?」
プシュッと湯気が出るくらい向日の顔が赤くなる。
「う゛ぇっっ」
「ちょっ!!」
「わたしもーガックン好き――っっ」
ガバッと抱きついた反動で
もう一度
向日が頭を打った。
翌日から、こんな会話が毎日のように行われるようになる。
「前髪も切ってみそ!」
「いっやぁっっ!!」
「せっかくだから、どこまでもオソロイッッ」
「い――や――――っっっ」
「俺のこと好きなんだろ?」
「それとこれとは別―っっ」
今度はハサミを持った向日に追いかけられるのであった…………
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なんてふざけたタイトル!!
なんてふざけた内容!!
精進します……
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