その日はいつものように岳人が跳んでて
いつものように跡部が腕を組んで立ってた。
ただ二つ違ったことは
@岳人の傍に侑士がいなかったこと。
A跡部の隣に樺地がいなかったこと。
ガゴッッ!!
突然鈍い衝撃音が響いた。
驚いた皆(私も)が音のした方を見ると……
倒れている人が2人……
「跡部?! 岳人!!」
そうこの2人。
跡部が下で被さるように岳人が倒れている。
「ななっ何? 何が起こったの?? 地震? 雷? 隕石?」
「まぁまぁお姫さん、落ち着きい」
慌てて駆け寄ろうとする私の腕を引っ張る関西弁。
「侑士っだってだって」
「頭打っとったら、動かしたらあかんねんて」
その言葉に渋々私はおとなしくなる。
「……起き…あがりませんね?」
どうしましょう? と長太郎が苦笑いを浮かべると
「しゃーないなぁ。誰か保健医連れてきてぇ」
と侑士がのんびり指示していたる。
ねぇ侑士、もう少し焦ったりしたらどうなの?
「誰かなんでこうなったか見てないん?」
無反応。
でもすぐに「ウス」と声がした。
「どうなったん?」
「ウス…………向日先輩がぶつかりました」
「……あんなぁ樺地、もうちょっと具体的に」
「ストーップ! 今の説明、樺地君にしてはよく言った方よ!!」
「ウス(先輩……(感謝))」
つ・ま・りと指を振りながら
「いつものように跳びまわった岳人が運悪く跡部の頭の上に落ちちゃったのね?」
「ウス」
一同が「あーあ」と深い溜息をつく。
この後の惨状が手に取るようにわかるからだ。
@意識を取り戻した跡部が不機嫌になり、今日の練習量が軽く10倍になる。
A岳人が跡部に拷問をうける。
Bその叫び声が自分達の耳に入る。
Cいたたまれなくなる。
そしてマネである私に
D跡部がワガママを言う。(いつものことだけど)
「はぁーぁ」
もう一度深い溜息をついた時、
「……ぅっ」
私達の真中で
「……っっ」
横たわる2人が意識を取り戻した。(たぶん)
「っってぇ」
起きあがった2人はそれぞれ頭をさすっている。
「跡部? 岳人? 大丈夫??」
2人と同じ目線になるようにしゃがみ、顔を覗きこむと
「いってぇなっ! このクソクソ向日!!」
「それはこっちの科白だろうが! アーン」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アレ????
今、私の目の前では不思議な光景が繰り広げられてます。
涙目な跡部。えぇ跡部です。
眉をつりあげる岳人。はい岳人です。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハイ???????
「あとべ? がく…と??」
「なんだよっ(涙声)」
「何だ?」
今のは前者が跡部で
後者が岳人。
私は眉間に手をあて
「跡部……岳人…………」
きょとんとする跡部。
あからさまに不機嫌な岳人。
「どうしちゃったの…コレ」
私の問いに
「……流石の俺もわからんわ」
ようやく正気に戻った侑士が応えてくれた。
◆アリさんとアリさんがゴッツンコ◆
急遽侑士の指示で長太郎が走らされ(保健医を呼びに行った部員を止めに行った)
宍戸によってテニスコートの周りにいたギャラリーが撤去された。
だって……ねぇ
後でこんな失態を見られたって知った跡部がコワイから。
とりあえず今変な2人はそれぞれベンチに座っている。
その座り方も変だ。
ベンチに手をつき足をブラブラさせる跡部。
腕を組みふんぞりかえる岳人。
それを遠くから
「侑…士……アレって」
「まんま反対やん」
座視する。
どうしたものかしら? と頭を抱え込むと
「いれかわりってヤツですか?」
「非現実的」
長太郎がすみませんと謝っている。
「しかしなぁお姫さん、あながち間違いでもないかもしれへん」
「侑士?」
「見た感じ反対やん」
侑士……どうして笑顔なの?
「―っ頭痛い。冷やすのちょーだい」
「あぁっ?! 俺が先に決まってんだろ」
もぉワケわかんない……
口調が反対。
前者が跡部で後者が岳人。
「なんや口調も反対やん」
だから、どうして笑顔でいられるの?
「―っ」
と跡部がダダをこねる。
それを鬱陶しそうに岳人が一瞥する。
「呼んでんで、お姫さん」
笑いを堪えた侑士が私を促す。
仕方ないのでタオルを濡らし2人に手渡した。
「冷たいーっ」
と嬉しそうな跡部。
ムスッとしたまま冷やす岳人。
ダメ
ダメよ。
侑士……私、笑いそうで笑えないわ!!
気持ち悪い!!
「樺地っ」
と跡部が呼ぶ。
困惑しながらも樺地が跡部に寄って行くと跡部は笑みを浮かべ
「樺地が隣にいないと落ち着かない」
とニッコリ言った。
「……ウッウス」
その笑顔に樺地はときめいたようだ。
「侑士」
今度は岳人が侑士に寄って行く。
「ダブルス」
一言ボソッと言う。
「プハーッッ!! あかん。あかんわ俺」
その態度に侑士が腹を抱えて笑い転げる。
「先輩……」
「何も言わないで。2人は樺地と侑士にまかせて考えましょう、今は長太郎しか頼れない」
長太郎は笑ってハイと返事をした。
テニスコートのベンチに座り
「跡部先輩と向日先輩、マンガや小説みたいに入れ代わってはないですね」
「そう…ね。向かい合って「俺がここにいる!」状態ではないわね」
呆然としている部員全員で話し合う。
最も会話ができる脳の状態を維持しているのは私、長太郎、宍戸くらい。
「本人達がっつーか、性格が入れ代わってんな」
「そう…ね」
「どちらかといえば無害なんですけど(跡部先輩可愛いし、向日先輩があんなでも恐くない
し)」
「気持ち悪いわ!!」
私は即答した。
「……そうですね」
長太郎は考えを改めた。
「元に戻すにしてもなぁ」
「そうよ。問題はソレよ」
「頭がぶつかったんですから、もう一度ぶつけたらどうですか? 向日先輩を投げるとか」
長太郎がニッコリ微笑む。
サラリと危険なことを言うわ。この子。
「それが妥当なんじゃねぇ? それくらいじゃ死なねぇだろ」
宍戸……あなた達がダブルスを組むの恐くなったわ。
「それしかないのかしら?」
「「さぁ?」」
さぁってあなた達……
もういいわ。
私一人で考えるから。
元に戻すとしても手荒なことはしたくないのよ。大会前の大事な体だし。
だからといって病院とか大事にしたら後から跡部が怒り狂うのよ。
「はぁ」
私は何度目かの溜息を吐いた。
こういうとき青学の乾君的存在が氷帝にいてくれたらよかったのに。
そう思っていると。
「へん」
気の抜けるような声がした。
こんな声を出すのは
「ジロー」
「、あれ何?」
あれ=可愛い跡部・照れる樺地&不機嫌な岳人・笑い続ける侑士。
あなた達、ジローにあれ呼ばわりされてるわよ。
「夢のつづき? ここはまだ夢?」
「……現実よ」
この有様がジローの夢だったらよかったのに。
「この夢、おもしろい」
だからジロー。これは現実よ。
「そういえば先輩」
何やら嬉しそうに長太郎が微笑んでいる。
「サーブの成功率があがったんですよ」
長太郎…今はそんなこと話してる場合じゃないのよ?
「あと調子もよくて威力もいいかんじです」
長太郎、問題が解決したら話は聞いてあげるから。
「ちょっと見てもらえます?」
長太郎、だから
「一・球・入・魂」
黄色いボールが物凄いスピードで飛んでいくわ。
少しスピードもあがったわね。
じゃなくて
「「「「あっ」」」」
その場にいる全員の声が重なった。
ボールの軌道上にいるのは岳人。
メリッ
なんだか今、ボールの発する音じゃない音が聞こえたわ。
痛そうね…岳人。
顔というか額付近に直撃したボールによって岳人の体が傾く
倒れるその先には
「侑士!」
思わず声をあげると
「わわっ」
と慌てて侑士が自分の前に人を持ってきた。
「跡部ッ」
そう――それは跡部。
侑士、跡部を盾にするだなんて……それは回避ではなくて無謀よ。
ゴッッ
跡部の頭に岳人の頭が直撃。
痛そうね……
部室からアイスノンだったかしら? 取ってきてあげるわね。二人とも。
「おい、またかよ」
宍戸、その通りよ。
ぶつかった二人はピクリとも動かないわ。
これは……
死んだ?
まさかね
また気を失ったのね。
「長太郎、今度こそ保健医呼んだほうがいいかしら?」
「そう…ですね。俺、呼んできます」
長太郎が走っていこうとしたら
「ひつよーないみたい」
ジローが止めた。
ジローの視線の先には
「っつ…」
「いってぇっっ」
起きあがる2人。
そしてそれを息を呑み見守る私達。
「ってぇなっ!」
「うわぁぁゴメンゴメン」
いつもの跡部。
いつもの岳人。
「はぁーぁ」
一斉に安堵の溜息が零れた。
「っあぁ? なんだ?」
不機嫌そうに周りを見まわす跡部。
ただただ平謝りを繰り返す岳人。
そんな2人を宥めるように樺地と侑士が話し始めたから
私は急いで部室に走った。
救急箱とアイスノン(?)を持ってテニスコートに戻ろうとすると
「何かあったのか?」
榊太郎に出くわした。
「ちょっと跡部と岳人が頭をぶつけて」
「そうか。行ってよし」
太郎……それが言いたかっただけなの??
榊太郎に一礼すると私は走った。
「跡部っ岳人!」
戻って来ると2人はもう一緒にいなくて
跡部の命によってグランドを走らされてる岳人。
それを腕を組んで見ている跡部。
いつもの光景に戻ってたから
思わず
「よかった」
って微笑んだら
「何笑ってんだよ」
跡部に怒られた。
+++後日+++
「はぁ? 俺が笑った?」
「俺が跡部みたいだった??」
あの日のことを2人に告げると
「バカじゃねぇの?」
「俺のことからかってるのかっ??」
2人は全く信じなかった。
結局、苦労したのは私だけ。
覚えてなさい。跡部、岳人。ついでに皆。
あとで青学行って野菜汁の作り方教えてもらってくるから。
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ごめんなさい。
こんなの書いてゴメンナサイ。
でも楽しかったデス。
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