「侑士」
この名前を呼ぶのにどれだけの勇気がいったか、アナタに分かる?
◆おしかけ◆
「ぷっ!」
初めてアナタを見たとき、それはもう可笑しかった。
「ぷぷっっ! あはははっ」
だって今時の中学生が丸メガネだよ?! 笑わない方が変だよ。
私ね、笑いながら気付いてたんだよ?
アナタの本性。
上辺のアナタの存在。
気付いてたんだから。
「そんなに笑わんでもええんちゃう?」
隣の机に身を突っ伏して笑い苦しむ少女に笑われている少年が声をかける。
「ごごっめ……ぷっぐふふ」
声をふるわして、必死に笑いを堪えようとしている少女は転校生。
つい先程この教室に入ってきたばかりだ。
持っていた荷物が重いだろうと自己紹介の前に席に着くように指示された少女が荷物を置
いた途端笑い出した。
「まぁええけど。えぇかげん笑いやめへんと担任切れんで?」
促されるように前を向くと、眉間に皺を寄せた担任が立っている。
HRが進まないと言いたげだ。
「っぁ! ………ぷぷっむへへ」
笑うのを止めようとするが一向に止まらない。
声を殺して笑っている。
担任も諦めたのか笑い声を無視して話を始めた。
伝達事項を述べると担任は
「えーっと、笑い過ぎのキミ」
軽く嫌味を込めて
「自己紹介がまだだな」
促す。
その言葉に「そうでした」と少女が立ちあがり前に出る。
カカッと黒板に字を書いた。
『』
笑いまくる少女に似つかわしくない達筆。
ぐふぐふと汚い笑い声で笑っている少女がやっと笑うのを止め
「です。ワケあって転校して参りました。よろしくお願いします」
スッと頭を下げた。
綺麗なおじぎ。育ちがいいのだとすぐに分かる。
顔をあげると教室内を見渡し、ふわっと微笑んだ。
大半の男がどよめく。
あの汚い笑い声を発していたとは思えない容姿。
氷帝には綺麗な女の子はそれはもう山ほどいる。が、の容姿は群を抜いている。
化粧をしているのでもないのに艶やかな唇。薄く染まった頬。
対照的に白い肌。
そして豊かな黒髪。
日本人形のような少女。
「ワケって言っても、大したことなんですけど、秘密だから聞かないでくださいましね」
外見はパーフェクト。
内面は……ビミョウ。
これがのクラスに与えた第一印象だった。
「教科書持っとるん?」
の隣から親切心の溢れる問いかけ。
「ハイ! ココに転校することはずっと前から決めてましたし」
「なんでなん?」
「さっきも言いましたでしょ? 秘密です」
口元に指先をあてて微笑む。
「丸メガネさんは――」
「ちょお待ち」
何かを言いかけたを少年が制止する。
「丸メガネて……」
「ああ、だって、丸メガネだから」
また「ぐふふ」と笑い出す。
「俺、ちゃんと名前あるんやけど」
「いいじゃないですか、細かいことは! それに私って人の名前とか覚えないんですの。
教えてもらっても覚える補償ないですわよ?」
「ヒドッ!」
「酷い女ですよ、私は。それにですね、私の記憶の容量少ないから丸メガネさんの名前覚
えて『大事な人』の名前忘れたくないんです」
と「ぐへぐへ」笑う。
「人間もうちょい容量あるやろ」
「ありません!(キッパリ)ただでさえココの編入試験で脳を使ったんですから! 脳を
休ませないといけませんわ」
有り得ない言い訳を自信満々に言う。
「もうええわ」
「賢明な判断だと思いますわ」
不思議な少女。
立てば芍薬、座れば牡丹。まさしく完璧な外見。
そんな少女が転入して来たということはすぐさま学園に広まり、休み時間事に廊下に人だ
かりができる。
中には頬を赤らめに見惚れる者も多数いる。
その様子に苦笑する室内の人間。
口を開けば
「ぐへへ」
「ぐふふ」
女の子として問題大有りな笑い声。
このことはまだクラス内だけの事実。
外の人達が知ったらどのような反応をするだろう?
思わず笑ってしまう。
そして昼休みになった頃
「さんご飯一緒に食べよう?」
と少女が数人を取り囲む。は華のような笑顔で
「いいんですの? うわーいvv あとですねって呼んでくれた方が有難いですわ」
と応え、いそいそと昼食準備をし始めた。
「こっちこっち」と少女達が机を並べ呼んでいる。
呼ばれるままお弁当を持ち、駆け寄ろうとすると
「デカッ!!」
その声に思わず立ち止まる。
「丸メガネさん? どうかなさって?」
キョトンとするにクラス全員の視線が集まる。
「自分1人で食うん?」
「もちろんですわ」
「デカすぎやん」
が持っているのは重箱。
三段の重箱である。
これは一家族分の昼食を賄える量だ。
「燃費が悪いんですの」
「(悪すぎやん)」
重箱を抱えたままは少年の机を覗き込む。
何も言わず、冷たい視線を送る。
「なに?」
「それだけですの?」
と指差す先にはパンが3つと紅茶。
「ん? そうやけど」
「栄養が偏りますわ(怒)」
「……そやけどしゃあないやん」
は少年の机の上に文字通りドンッ! と重箱を乗せ、開くと
一段を少年に突き出した。
「お食べになって」
「はぁ?」
「パンもいいですけど、野菜も取らなくては!」
「(なんなんこの娘)」
「遠慮なさらずに。ハイ、お箸ですわ」
二段になった重箱を抱えると少女達の机へと駆けて行った。
少年は苦笑すると箸に手を伸ばし弁当を口にした。
「……ウマイやん」
久しぶりに食べた手料理だったので少年は嬉しそうに食べた。
重箱一段は育ち盛りの少年の胃を満腹にした。
ふとに視線をやると
「二段食うとる」
すでに重箱二段を平らげていた。
「さん」
と聞き覚えの無い声が室内に響いた。
呼んでいるのは同学年の少年。
顔を真っ赤にしていることから察して告白だろう。
(転入早々やるやん)と見ていると
「何用?」
はその場から立つこともせずその少年を見据える。
「ちょっといいかな?」
「用があるのでしたら、そちらがいらして」
誰もが予想していなかった言葉。
言われた少年も聞いたクラス内も驚く。
少年は躊躇したが意を決すると室内に足を踏み込んだ。
「一目惚れしました!」
潔く告白する。
その告白にはニコリと微笑む。
(まさかOKするん?)と見ていると
「だからなんですの?」
と言い放った。
「一目惚れをしたと言いましたけど、私に何を望んでいますの?」
(いや、そこまで言われたら付き合えっい意味やん)ツッコミ。
「あの……付き合ってくれないかな?」
少年はたじたじだ。
「それは恋人としてですの?」
「っああ」
はそれはもう誰もが見惚れるほどの笑顔で
「嫌ですわ。無理ですわ」
ピシャリと言った。
「ぷっ…………ははははははっ!」
数秒たって笑い声が響く。
「丸メガネさん、なに笑ってますの?」
「めっちゃおもろいわ! 自分最高やで」
ひゃっひゃと腹をかかえて笑う。
「失礼な方ですこと」
「自分も朝俺のことめっちゃ笑ったやん」
「それは! 丸メガネが面白すぎですから」
「自分も面白すぎ!」
そんな2人を見て
「忍足がバカ笑いしてるの初めてみた」
「忍足くん可愛いー」
と声があがる。
「オ…シ……タリ?」
の頭に?マークが点滅する。
「ああ、俺のコト。俺の名前は」
空中に字を書きながら
「忍…た」
名前を言おうとした時。
「侑士」
がポツリと呟いた。
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続いてますね。
展開についてイロイロと悩み中。
うーんうーん(悩)
続きを書くのは遅くなるカモです。
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