氷帝学園の裏門に一台のタクシーが乗り付けて、その中から出てくるのが誰なのかってことはわかってた。

でも

まさか

そんな格好で出てくるとは思ってなかったんだよ。(岳人心の声より抜粋)



◆居場所◆



部室という空間にはあまりにも艶やかな存在。

否、中身はいてほしい存在なのだが、その服装が……

「……ちょっと」

の怒気を含んだ声だけが響く。

「笑わないでくださいます?」

それは全体に向けられた声ではない。
現に、忍足、芥川、滝、樺地、鳳は笑っていない。
鳳に関してはの姿に見惚れる程だ。

笑っているのは向日。宍戸。
それと、嘲笑する跡部。苦笑いの日吉。

「コレはこの格好は…その……」

ピラッと袖をひらつかせる。
格好=振袖
『見合い』の為に着ていたとは言い難く口篭ると

「それで男は騙せたのか?」
と、跡部にからかわれる。

「え? え??」
唐突に発せられた言葉に戸惑うと

「おみあい。しってるの。だから、いくの」
半覚醒状態の芥川がポツリと言った。

「朝さぁ…」
混乱するを面白がる向日が説明を始めた。



●朝練前の部室にて

「なぁ、忍足、いいこと教えてやろうか?」

その口調から、どの辺が『いいこと』なのだろうと疑いたくなる。
誰が聞いても『いいこと』を教えてくれるような口振りではない。

しかし忍足は黙って耳を傾ける。

「見合い、今日らしいぜ?」

ガタンッと音を立てて向日が椅子からずり落ちた。
「見合いって? 誰が?? ??????」
珍しく察しがいい向日が混乱気味に立ち上がり「マジかよー?!」と騒ぎ出す。
一緒になって芥川も騒ぎ出すがこの際無視する。

「あっちじゃ少し名の知れた資産家の一人息子が相手らしい。しかも一回以上年上だ
とよ」

「今日?」

「ああ。午後だ。相手に気に入られたらすぐにでも結納交わすんじゃねーの?」

「……」

「で、どーすんだ?」

「…なにが?」

「まだ間に合うぜ?」

「……」

「いらねーんなら、俺がを貰う」

「……跡部が?」

「俺が」


数秒沈黙して


「……譲れんわ」


と、一言だけ言う。


「じゃあとっとと行け」



ガッと跡部に部室から蹴り出される。
「痛いやんっ!」
蹴られた個所を撫でながら抗議すると

パラッ

と紙が忍足の目の前に降ってきた。

「何?」
「はやく行け」

それは切符。
新幹線の切符だった。

「表に車用意してある。時間はソレに書いてあるだろう? 間に合うように行けよ」

「…景ちゃん」

「……」(無言の威圧)









「そんな感じで慌てて侑士はのこと迎えに行ったんだぜ」
得意満面と言った感じで向日は話す。

それを楽しそうに聞く
それを恥ずかしそうに「うぁー」とか叫びながら邪魔をしようとする忍足。



続けて芥川が話し出す。


「で、おしたりくんはちゃんとまにあった?」

「間に合ったからがココにいるんだろーっ」

チビッ子2人が騒ぎ出す。

「ほら、話せよ」

そんな2人を無視して跡部が忍足を促す。

「う゛…」

口篭る忍足。



「話せ」



その跡部の一言で渋々忍足は口を開いた。







●昼過ぎ

「あかん」(滝汗)

跡部の助力もあり、無事に地元まで辿り着いたのだが

「タクシーつかまらん」(焦)

運が悪いのか、はたまた誰かの陰謀が
忍足の前をタクシーが一台も停まらないのだ。
ついでに駅前にも停まっていない。

「なんでやねん」

ブツブツ呟きながらもバス停へ。
のいる料亭の場所も跡部に聞いた。
『跡部』の情報収集力は凄まじいと改めて実感する。


そうこう考えながら丁度来たバスの乗り込む。


このまま30分揺られ、乗り換えて更に30分。
それから歩いて小1時間という辺鄙な場所にその料亭はある。




目の前を今まで乗っていたバスが去る。
それを見送りながら、長い時間バスに揺られ強張った体をほぐす。
時計を睨むと跡部から聞いた予定時間の少し前。
バスから降りて、歩いていては間に合わない。

「走りやすい靴履いてくればよかったわ」

軽く溜息をつくと、思い切り地面を蹴った。














「それで、汗だくでしたの?!」

まぁ、とが声をあげる。

「絶対のジジィの陰謀やと思うたわ」

大変やったんやで、と話す話を周りは爆笑しながら聞く。

「笑うなや」
「無理っ!!」(ブフーッ/笑)


「それで、いっしょにかえってきたの?」
「相手殴るとか面白い事はなかっのかよ?」
「そーだそーだ! なんだっけあの映画。奪うやつ」
「うばう?」
「何言ってんだ?」
「ああっ! あれっ! 花嫁奪うヤツ!! そんな感じのこと侑士しなかったのかよ」


「…………できるかボケ」(忍足)

「うそつき」(ポツリ)(


「どっち?」


「やっとらん!」
「嘘ですーっ。私のこと担ぎ上げたじゃないですか! お爺様の顔見えませんでしたけど絶対絶対顔面蒼白だったはずですわ!」
「しゃあないやん! お前がポカーンてアホ面で座っとたから」
「アホ?! もう侑士っっ」(怒)



ぎゃあぎゃあとケンカしだすと忍足を見て、周囲は微笑む。

「仲良くなってんじゃん」
「だね」
「世話かけやがって」











「なぁ

以外には聞こえない程の小さな声で忍足は言う。

「何ですか?」

「気付いとる?」

「?」

「今、自分普通の中学生みたいやで」

「え?」

「気品のカケラもないわ」

「…もっもうっっ侑士っっ」(怒)




普通の中学生のようにケンカし笑う忍足。
同じように笑う

今まで願っても手に入らなかった『普通』がここにはある。


















「私、ココにいてもいい?」


がポツリと呟くと


跡部からは「バーカ」
向日からは「当たり前じゃん」
芥川からは「うん。いて」
宍戸からは「訊くまでもねぇだろ」
滝、鳳、日吉、樺地と同じような言葉が続き

最後に

「ココにいてほしいねん」

照れながら忍足が言った。



















***反省***
はい、帰ってきたよ。
で、もうドコにも行きません。
さんの居場所はもうココになったワケです。
ここで、忍足さん一段落。
続きは書きたくなったら書きます。(笑)