絶対に、連れ戻す。
それが条件。
私が東京に来た理由。
◆言えないこと。◆
犬猿の仲。
それがテニス部員が忍足とに持っている印象。
結構(かなり)イイ奴。
これがテニス部員がに持っている印象。
そして、ここ1ヶ月でガラリと印象がかわったのが忍足。
天才から……
「なんでやねーんっ!」
関西弁の変な男。へと印象がかわっていた。
「なんでやねんって、(将来の)妻と帰路を」
「誰が『妻』やねん! 誰が!!」
「私」(指差し確認)
「認めんわぁ! ついでに一緒にも帰らへん!」
「ひどい…(ウソ泣)」
「おまえの涙なんか痛くも痒くもないわ!」
この1ヶ月、の出現により、忍足は鉄壁のガードがことごとく崩された。
クラスメイトの前でもクールを装い、声も荒げなかった男が
「いやや、もういややーっっ!!」
感情剥き出しにして叫び
「コイツがマネやるんやったら、テニス辞める」
泣き言を言い
「景ちゃん助けてぇな」
友達に泣きつく。
普通の中学生のように。
「樺地」(パチン)
「ウス」
跡部に泣きついた忍足は問答無用で樺地によって引き剥がされる。
「ヒドッ! 景ちゃん酷いわ」
「黙れ」
「侑士ったら跡部さんに抱きついて! 私には抱擁していだだけませんの?」(両手を広げる)
「いややっ」
「樺地さん」(パチン)
が跡部の真似をして指を鳴らすと
「ウス」
樺地が忍足をつかまえ
ポイッ
とに投げた。
それをすかさずキャッチしてが思い切り忍足に抱きつく。
の腕の中で
「なんで?! なんで樺地が動いとるん??」
「……先輩の命令…ですから」
「ありがとうございますv樺地さんvv」
、恐るべし。
榊に続き、樺地まで手懐けていた。
ブブッ……ブブッ……
の腕の中でもがいていると振動音が響いた。
その音はの制服のポケットからしている。
「…………」
その音に何の反応も示さないに
「ケータイ、鳴っとるで?」
この隙に逃げようと忍足が教える。
しかし
は動こうとしない。
顔をあげ、表情を見れば
無表情。
つい数秒前まで、携帯が鳴り出す前まで笑顔が溢れていた顔は
なんの感情も示さない表情を取っていた。
ブブッ……ブッ……
音と振動が止むと
「さぁさ、着替えて部活ですわvv 私も着替えて参りますから皆さんは先にコートへ行かれててくださいましvv」
パッと笑顔を取り戻し、忍足を腕の中から解放した。
腕の中という近距離でなければ気付かなかった異変。
「?」
不思議だとは思うものの、解放された喜びですぐにそのことは記憶の片隅に追いやった。
は制服からジャージへと着替えると制服のポケットから携帯を取り出し、ディスプレイを見た。
出るのは溜息ばかり。
案の定、電話してきたのは祖父。
親指にギュッと力を入れ、携帯の電源を落とした。
「ってケータイ持ってんの?!」
部活中、雑用をこなすの元へ駆け寄ってきてこう聞いたのは向日。
「ええ、一応」
「なんだよーっ教えろよ! 俺のバンゴウとアドレス教えるからさ!」
「ええ、いいですわよ」
部活中、しかし少しの休憩と思えばいいか。とは向日と会話を始めた。
「ちよっと待ってて、俺ケータイ取ってくるから」
「向日さん、部活後でもいいのではなくて?」
「ダーメッ! 皆の前で聞いたら皆にのバンゴウとかバレちゃうじゃん! 俺1番」
くすくすとは笑い
「でしたら、今の会話もコートの近くでなく、遠くですればよかったですわね」
「ツメが甘いんだよ。バーカ」
向日の後に立っていたのは跡部。
「今から、休憩だ。、俺にも教えるよなぁ?」
「ええ、跡部さんが知りたいのでしたら」
「じゃあ俺も俺も!」
「ええ、芥川さん」
こうしてぞくぞくと集まってきたレギュラー達と携帯の番号交換が始まった。
「……っと。登録完了! なんか面白いメールあったら送るな!」
「待ってますわ」
それぞれの番号を交換し終えた頃。
「ちゃんは、忍足くんのバンゴウ知ってるの?」
芥川がケータイのカメラをに向けながら問う。
「侑士ったら教えてくれませんのよ」
少し頬を膨らませ言った瞬間
パシャッ
芥川はシャッターを下ろした。
「もっもう、芥川さんっ」
「かっわE。この写真登録☆」
「俺が教えてやろうか?」
唐突に跡部が口を開く。
「え?」
「忍足の番号とアドレス」
右手で携帯をいじり、もう忍足のデータを出しているようだ。
「お心遣いには感謝いたしますけど、結構ですわ」
やんわりと断った。
「どうしてだ?」
「人から勝手にそういうものを他人へ流されては、不快でしょう?」
ピクッと跡部の眉が動いた。
今の言い方が気になったのだ。
人から他人。
は何気なく言ったのだろうが
自分のことを、まして「婚約者」である自分のことを「他人」と表現するだろうか?
なにか、ある?
ふっとそんな考えが頭をかすったが、今はまだ何も問い詰めるべきではないと判断し、口を閉じた。
「なにしとるん?」
が中心にいることで遠巻きに見ていた忍足が談笑する皆を見て、寄って来た。
「のバンゴウきいちゃった♪」
嬉しそうに向日が言うと
「俺のは教えてへんよな!?』」
真っ先にそう言った。
「聞いてませんわ。直接、侑士が教えてくださいましvv」
さぁさ、と携帯を片手に詰め寄る。
「絶対嫌やっ」
それを断固拒否する忍足。
「諦めませんわよ! 絶対、絶対教えてもらうのですから!」
携帯をジャージのポケットにしまいこむと
「跡部さんっそろそろ休憩終わらせたらいかがです? 10分経ちましたわ」
遣り残していた雑用をし始めた。
そしてそれぞれ、活動を再開した。
その日の部活終わり。
「侑士っ今日こそ一緒に帰りましょう!」
「部活前から嫌やて言うとるやん」
恒例になってきた会話が始まった頃
ブブッ……ブブッ……
机の上に置いておいた携帯が動き出した。
持ち主は。
一瞬、の表情が強張った。それを見逃さなかったのは忍足一人きり。
すぐに
「っ今おもしろメール送ったからな!」
という向日の声がして、ふわっと表情が柔らかくなる。
「今送ったの占いでなっ『毛占い』とかあんだぜ?」
「毛ですの?」
「人体の毛に例えるんだよ」
「まぁ」
というように普通に会話が行われはじめたが
「おかしいやんなぁ」
どうしても気になった。
携帯に過剰反応する。
これは何かある?
「侑士っ、毛占いってご存知?」
楽しそうにが寄ってくる。
それを軽く流して
「なぁ、俺にもバンゴウ教えて?」
座っている姿勢からを見上げ、言った。
その言葉にの大きな瞳が揺らぐ。
「え?」
「俺のバンゴウ、教えるさかい」
「ちょっちょっとお待ちになって」
初めての忍足からの接触によほど嬉しかったのか
小刻みに手を震わせながら携帯を操作する。
立ち上がって、息のかかりそうなほどの距離まで顔を近付けると
「ええケータイ使ってるんやなぁ」
耳元で囁いて
「ええ??」
わざとの手元を狂わす。
ピッ
狂った手元は忍足の思い通りに『着信履歴』を表示させた。
『実家』
ディスプレイにはそう表示されていた。
家からの電話になんでビビるん?
「はい、どうぞvv言ってくださいましvvvv」
華のように微笑むを見て、教えるつもりはなかったのだが、忍足はつい教えてしまった。
「電話はせんでなぁ(やる気ナシ)メールもよしてなぁ(めんどくさい)」
「わかってますわvv緊急事態以外、かけません。教えていただけただけで嬉しいの」
そないな笑い方すんなや。
あまりにも嬉しそうに笑うものだから、忍足は少しの罪悪感を覚えた。
その罪悪感を払拭すべく
「今日だけやで?」
初めて、と一緒に帰ることにした。
一緒に帰ることで気付いたこと。
「自分、ストーカーみたいやわ」
「侑士の住まいくらいリサーチ済みですわvv」
忍足は学園のすぐ近く(と言っても歩いて20分はかかるのだが)に一人暮らししていた。
そしてはその忍足の住むマンションのすぐ近くに住んでいるいうのだ。
「こわっ……」
「失礼ですわねっ! いくら(将来の)妻ですからって殿方の部屋に押し入ったりしませんっ」
「ほんまに頼むで」
「わかっていますわ。緊急事態以外行きません。もちろん覗いたりとかもしませんわよ」
忍足のマンションの前まで来ると
「では、私はここでvまた明日ですわ」
ヒラヒラと手を振りながら去るに
「1個、質問してええか?」
忍足が問う。
それは自然零れた疑問。
訊いていいのか、悪いのか。
それはわからないものの、訊きたかった疑問。
「?」
立ち止まり、ジッと忍足を見つめるに
「なんで実家からの電話に出えへんの?」
フッとの瞳が翳る。
口元だけに精一杯の笑みを浮かべ
「自分の 汚さを 愚かさを 悔やむだけだから」
あまりに小さな声だったので忍足の耳には届かなかった。
「今――」
訊き直そうとする忍足の言葉をさえぎって
「また、明日。さよならですわ」
クルッと背を向き、は歩いていった。
忍足はなぜだかその後姿を見えなくなるまでずっと見ていた。
心の隅に追いかけたくなる衝動を抱えながら……
自宅へ戻ると、は溜息をついた。
まるで
まるで普通の中学生のように笑う忍足。
「もう少し、もう少しだけ」
今しか、ないのだから
「侑士だけは…笑っていてほしいから」
まだ
普通の中学生のように 仲間と ただ
笑っててほしいから。
「だから、終わらせるまで…なにも 言えない」
***反省***
1ヶ月ぶりの続き。(最悪)
書いてる私が内容忘れかけてた…(最低)
今回はさんに少し歩み寄り始めた忍足さんと
近付きたいのに距離を置かずにはいられないさん。
という感じで書きました。
次回急展開の予定。(うそ臭いなぁ…)
さんと忍足さんに本音トークをしてもらう予定。きっとそうなるハズ。
話しの途中、忍足さんの問いの答えは反転させたら読めます。