どちらかといえば、苦手な存在。
それなのに。
なんでだろう、目が離せなかった。
今日、初めて会った訳でもなんでもないのに。
ただそのとき…わたしの周りの空気が。
すべて、止まったように……。
Confession
ゴールデンウィークが近くなってから、周囲のざわめきはいつもよりすごい。
友達同士で、どこか遊びに行こう、と相談していたり。
恋人同士なら、少し遠出をしようか?と相談していたり。
そんな中、教室の後ろの方から聞こえてきた話題は、
それほど楽しそうなものではなかった。
「なぁ、何日間やるんだよ」
「あ?連休中ずっとに決まってんだろ」
「マジかよ。休みなし?」
「バカかお前は。当然だろ?なぁ、樺地」
「ウス」
ぼんやりとしていたわたしは、声のした方を何となく振り返った。
話していたのは、宍戸くんと跡部くんと、樺地くん。
テニス部の合宿かな……。
ふぅん、すごいな…と何となくそのまま見ていただけだった。
◇◆◇◆◇
「……で、なんでわたしはここにいるの?」
「やだなぁ、ってばなにを今更」
「……。はめたでしょ」
「はめただなんて人聞きの悪い」
「それ以外になんて言うのが正しいわけ?」
「まぁまぁ、あの跡部くんたちと3日間もいられるのよ?
それだけでもすっごいことじゃない」
「…なにがすごいんだか……」
へらへらと笑うに、わたしはため息をつくしかなかった。
昨日の夜、珍しく電話をしてきた。
GWだから泊まりにおいでよ、と言われて別に暇だったわたしはいいよ、と言った。
待ち合わせ場所に来てみれば、そこにいたのはテニス部のそうそうたる面々。
つまりレギュラー陣。
わけがわからないままに拉致られて……今に至るんだけど。
「なんでわたしがテニス部の皆さんとこんなでかいバスに乗ってるわけ」
「うーんと、今日からの合宿で臨時マネージャーをするから?」
「だからそれがなんで、って聞いてるんだけど?」
的を得てるんだかごまかしてるんだかわからないの言葉に少しだけイライラする。
ギロリとにらんでみてもはうふふ、と微笑むだけで。
その姿は、男子が見れば思わず見とれちゃうくらいかわいいけどね?
あいにくわたしには効かないのよ。
全くなにを考えているんだか……。
「何だ、テメーは。なんか不満でもあんのか」
あきれ果てたわたしがぼんやりと窓の外を見始めたとき、
通路を挟んだ隣の席から不機嫌そうな声が聞こえた。
まさかわたしに話しかけてるとは思わなかったから、そのままにして窓の外を見る。
「おい、。無視してんじゃね−よ」
「え?わたし?」
「そうだ。ぼんやりしてるんじゃねぇよ、バーカ」
「…あのねぇ、跡部くん。一つ言っておくけど」
「あ?なんだよ」
「名前も呼ばずに話しかけられたってわかるわけないでしょ」
「フッ、…思った通りだったな」
「なにが」
「さあな。まあ楽しみにしてろよ」
にやり、と笑った跡部くんは、満足そうにこちらを見る。
いったいなに、と思っていると、がわたしの袖を引っ張ってきた。
「何よ、」
「まぁまぁ、そう恐い顔しないでよ。
急な合宿だったからマネージャーがこれないらしくて」
「だったら始めからそう言えばいいじゃない」
「んー、いろいろあったのよ。ごめんね?」
「…もぅ、いいよ」
ため息をついたわたしをは困ったように見つめる。
言われてみれば、だって別にテニス部のマネージャーじゃない。
クラスで仲がいいって言ってた忍足くんあたりに頼まれたらしいし。
それなら仕方ないか、と思っての肩をポンポンと叩いた。
安心したように笑ったを見て、わたしはまた窓の外を見た。
◇◆◇◆◇
合宿も最終日になれば、みんなどこか疲れたようにしていて。
もう部屋で休んでいるらしいので、わたしは少し散歩に出ることにした。
「けっこう、いい体験だったかも、ね」
練習さえ終わればいつも笑顔でいるレギュラー陣。
臨時でマネージャーになったわたしたちにも、みんな優しくって。
何かと声をかけて、手伝ってくれたりもしてた。
わたしは思っていたよりもハードな練習をしていることに驚きが隠せなかった。
派手なだけじゃ、テニスなんてできないのはわかってたつもりだけど、
いつだって外見が優先されているように見えたから。
あの人たちがそれだけじゃないって知れたことが、何となく嬉しかった。
ぼんやりとそんなことを思いながら歩いていたとき。
遠くでボールの音が聞こえたような気がして、わたしはそちらに足を向けた。
歩いていった先にあったのは、テニスコート。
薄い闇に包まれたそこにいたのは……
「跡部くん……?…」
一人きり、闇の中でボールを追っている。
しなやかなシルエットが、月の明かりに照らされていて。
いつも見せる俺サマな態度なんて、どこにもなくて。
ただひたすら、真摯な瞳でコートに向かっている姿……
なんとなく、目が離せなかった。
「……キレイ……」
そう、気がついたらこぼれ落ちた言葉。
わたしの意思じゃなく。
考えて出た言葉でもなくて。
コートを走る姿から目をそらせないままで。
「おい、何してる」
「……え?」
突然かけられた声に驚いて、我に返ると、
目の前にタオルで汗を拭きながら立っている跡部くんがいた。
不機嫌そうな声。
その割には口元に笑みを浮かべて。
「なんだ、俺様に見とれてたのか?」
「え…うん…って、ち、ちがう!」
「クッ。バーカ、何焦ってやがる」
「……練習、終わったの?」
「ああ。…まぁな」
わたしはまだ、何かにとらわれたような気分のまま跡部くんを見上げた。
月に照らされた…横顔。
額に浮かぶ汗が、きらきらと光っていて。
それは、太陽の下で見るよりも、なんだか幻想的だった。
だけどそんなこと、言いたくなくて。
「…跡部くんって、結構努力家だったんだね」
「バカか、お前は。何もしないで強くなれるわけねーだろ」
「そっか……そうだよね」
「当然だ」
そう言ってニヤッと笑う。
それはいつもの憎たらしいほどの微笑みだったけど。
なんとなく…。
なんとなくなんだけど、心が疼いた。
「……」
「ん?…って、え?な、なんで名前…」
「……悪かったな」
「なにが?」
「なんでもねーよ。
それよりこんな夜になってから一人で歩き回ってんな、バカ」
「うっさい、どーせここには氷帝メンバーしかいないじゃん」
「誰だって同じだ。少しは考えろ、バカ女」
ぼそり、とわたしの名前をつぶやいた跡部とは、まるで別人のような憎たらしいセリフ。
改めて見上げると。跡部くんは少し視線をそらしたから。
「…もしかして、心配してくれた、とか?」
「バカなこと言ってんじゃねーよ。オラ、戻るぞ」
「ちょ、待ってよ!」
歩き出した跡部くんを追いかける。
不器用な優しさに、頬が緩むのを押さえきれずに。
でも仕方ないよね。
ごめんね、気づいちゃったよ。
わたしは追いついた跡部くんのユニフォームの裾を軽く掴む。
「…跡部くん」
「あん?…なんだよ、」
「ごめん、わたし……好きかも」
「あ?」
「跡部くんのこと……好きかもしれない……っ!…」
そう言った瞬間に、わたしの視界が暗くなった。
驚いて目を見開くけど、ぎゅうっと押し付けられたようになっているから何も見えなくて。
息もできないくらいの圧迫感。
だけど、そんなわたしの耳に…直接届く音。
その音が、今どんな状況にいるかを教えてくれる。
「バーカ、んなこと見てりゃわかるんだよ」
「あ……とべ…くん…?見てりゃ…って」
「……好きだ。」
「………え…」
いつもよりもくぐもって聞こえた声。
それはわたしが、彼の腕の中にいるから。
少しだけもがいて、顔を上げてみる。
そこに見えたのは、さっきボールを追っていたときのような…真剣な瞳。
「……あ、の……」
「ずっとそばに…いろよ」
「………え?」
「俺様が言ってんだ。誰にも文句は言わせねぇ」
そう言ってにやりと笑った自称『俺様』。
でも本当は誰よりも努力してるのを知っちゃったから。
この人は誰にも見せずにそれをやってきたんだ…。
だけど、このまま頷くのは悔しい……よね?
「…跡部くんがわたしを必要なら、いてあげるよ」
「何言ってんだ。別に俺はお前なんて…」
「いらない?」
「……フッ、上等だ。さすがだな、」
「………大好きだよ……景吾」
これからは、いつも見ててあげる。
あなたがわたしを想ってくれてる以上に。
だから……ずっとそばにいさせて。
アコさん、相互リンクありがとうございます!!
(一応)跡部様を書かせていただいたのですが、
お礼というにはかなり微妙なお話になってしまいました…(泣)
ほんとすみません。
好きなんだけど跡部様は難しいのです…。
こんなものでもよろしかったらもらってやって下さいませ。
もちろん、返品も書き直しも可ですので。
ということで、本当にありがとうございました。
これからもよろしくお願いしますvv
── Kanon ──
花音さん、ありがとうございました!
アコ感激〜vv
景吾さん景吾さんわーいわーいヽ(゚▽゚*)乂(*゚▽゚)ノ バンザーイ♪
こちらこそこれからも宜しくお願いします。
本当に本当にありがとうございました!
花音さんのサイトは→Sweet Cafe