「どう思う?」
と聞かれれば
「跳びすぎ」
としか応えようがない男。




◆キミとブランコにのる◆




「いやね、そういう意味じゃなくて」
「じゃあ、どういう意味?」

こんなクダラナイ質問をしてくるのはの親友である

「だってと向日ってすっごく仲いいじゃん!!」
「うん。仲はいいけど」
「で、どうなの?」
「だから、どうって?」
「好きなの?」

正直、驚いた。

そんな風に考えた事がなかったから。

「……」
??」

「嫌いじゃないよ。ただ」
「ただ?」
「どの『好き』かはわからない」

ガタンッと大きな音をたてて崩れ落ちたのは私達の目の前に座っている男。
会話の中心して扱われている男。


向日岳人。


「岳人?」

椅子から転げ落ちた岳人に「大丈夫?」と訊きながら顔を覗き込むと
大きな瞳にうっすら涙を浮かべ、落ちた拍子に打ったお尻を撫でながら

―っっっっ」

うらめしそうにを見上げた。

「なぁに?」
「俺、毎日に好きだって言ってるだろ?!」
「うん」
も好きだった言ってくれただろ??」
「うん」
「付き合ってるんじゃなかったの? 俺達」
「? そうだったの?!」

椅子に座ったまま、あまり表情をかえず驚く
それを床に手をつき、この世の終わりのような顔をして見上げる岳人。

その2人を面白いと思いつつも、哀れみの表情で見守るクラスメイト。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


長い沈黙。
その沈黙を破ったのは岳人だった。


のバカーッッ」


まるで小学生のような捨て台詞を吐き教室を飛び出していった。




「追いかけるべき?」


きょとんとした表情でを見つめた。








という女は簡単に言えば
『にぶい』のだ。
しかもそれだけでなく、
『うとい』のだ。


だから『恋愛』なんてにとっては未知の世界。


そんなこんなで向日岳人の恋心は届いているつもりで、届いていなかったのである。






「岳人、午後の授業受けないの?」
走り去った岳人を追いかけるでもなく、出ていった方向を見つめ疑問を投げかける。
もちろん返答が返ってくるわけはなく
「岳人のノート…私がとるの??」
手を伸ばして目の前の机からノートを取り出し、次の時間の用意を淡々とこなす。






、ちょっとズレた14歳。





















結局、岳人は戻らず午後の授業は終了。
そして部活の時間となった。



















「岳人はドコ行ったん?」
あまりに遅い相棒を捜して忍足がやって来た。
この教室にいるのはだけ。

「岳人ならお昼休みにどこかに行ったよ」

その理由が自分自身だとは全く思っていないが忍足に言うと

「まぁた原因はちゃんかいな?」

的確に忍足が言い返した。

「私、何もしてないよ?」
「わかっとるわかっとる。ちゅんは何もしてへん。で、ちゃん理由は?」
が向日のこと好きじゃないって言ったのが聞こえちゃったのよ」
マジで?!(やっと?って気もするけど)」
「私岳人のこと好きだよ?」
は黙ってて。『付き合ってる』って思ってた向日はショックで飛び出して行きました」
イタターッ! で、まさかそのまま?」
「そう、そのまま」
「あかん! あかんでちゃん! 追いかけたらな!!」
「そうなの??????」
「(?多すぎ)向日、ドコ行ったのかしらね?」
「公園にいるって」

ふと口にした疑問にすぐさま返事が返ってくる。

「「は??」」

「さっき岳人からメールがきて、公園にいるって」

ほら。とが自分の携帯電話を忍足に手渡す。

そこには2時間以上前に

『公園にいるんだぞ! わかったか?』

ていう文が『向日岳人』という発信者から届いていた。


「「(コレってあからさまに迎えに来いって意思表示じゃん!!)」」


携帯を片手に固まる忍足とを見上げ

「どうしたの?」

不思議そうに微笑む。

「(岳人、あかん。あかんで! ちゃんにまた通じてへん!!)」
「(少しくらい学習しなさいよ!! これくらいでに通じると思ってるの??)」


忍足はガシッとの肩をつかむとNHKの歌のお兄さんバリの笑顔で

ちゃん、忍足くんお願いがあるんやけど」
「なぁに?」

切り出した。

「忍足くんな、岳人とダブルスやってんねん。知ってるよな?」
「知ってるよ?」
「だから忍足くん岳人おらんとめっちゃ困るんやけどなぁ」
「あっ! そうだね」
「忍足くん岳人迎えに行きたいんやけど、部活を勝手に抜けるわけにはいかんしなぁ」
「じゃあ私が行ってくるよ」
「ほんまに? ありがとう、助かるわ(岳人、俺等が苦労するんやから無駄な行動すんなや)」
、向日見つけたらすること分かってる?」
「もちろん。
ガツンと1発殴って部活に連行すればいいんでしょ?」
あかんあかん!!(そんな可愛らしい笑顔でなんてことを!!)」
「殴る前にが向日に謝るのよ? 謝れば向日は機嫌なおすから!!

怪訝そうなを無理矢理教室から押し出すと

「「いってらっしゃーい」」

忍足とは笑顔で見送った。

































「遅い」

一方、岳人は学校近くの公園のベンチに座って何度目かの溜息をついていた。

昼休みに学校から飛び出した。
すぐにが追いかけてくるだろうと思っていた。
しかし時刻はもう4時過ぎ。
とっくに部活も始まっている。

にメールを送ってから早数時間。

来る気配無し。

「なんだよっ」

ザリッと地面を蹴る。
同じ所を何度も蹴ったのでそこだけ地面の色が変わっていた。

のばかやろー」

なんとなく呟いた一言が

「ばかとはなによ」

丁度やってきたの耳に届いた。

?!」

急に聞こえた声と、現れた姿に驚いてバッと立ち上がる。

「岳人ぉっ! バカって言う方がバカなんだから!!」

ツカツカと岳人の所まで歩み寄ると、言葉とは裏腹にゆっくり隣に腰をおろした。


そして立ち上がったままの岳人を見つめ



「ごめんね」



ポツリと言った。

これで機嫌がなおるとが安堵の笑みを浮かべると

に言えって言われたの?」

何かを諦めたような表情で岳人はの隣にもう一度座った。

「?? うん、が殴る前に言えって」

(殴る?!)…やっぱり」

素直すぎるのも、どうかと思う。
そんなことを思いながらの顔をジッと見つめ喋りだした。

「あのなぁ。俺はが好きだぞ?」
「うん。私も」
(もう騙されない)が跳びすぎって言ったプレイスタイルだってが「岳人が跳んでるのってかっこいい〜」って言ったからなんだぞ?」
「そうなの?」
(あんなに喜んでたくせに!)もういい」
「岳人が跳ぶのってただ好きだからだと思ってた」

ケラケラと笑うの頭をクシャっと撫でると

ふと真顔になって


























「こんなに好きなのにどうして伝わらないんだろう?」





























「そんなこよりさぁ、跳ぶのってどんな気分??」

(そ ん な こ と ? ! 流された!!)……跳ぶのって…そうだなぁ」
「私ってば運動神経ブチ切れてるから跳びたくても跳べないし」
「(なら運動神経繋がっててもできない思う)(でも言わない)そうだなぁ」

岳人は「うーん」と唸りながらキョロキョロと辺りを見回すと

「ついてきてみそ」

満面の笑みを浮かべて公園の奥へと走って行く。
それをが「部活行かなくていいのぉ?」とブツブツ言いながら追いかけると、先にはパステルカラーで塗られているブランコがあった。

「はい、座る」

強引にブランコに座らせられると

「スカート足で挟んでた方がいいよ? あと」

ギッ

と音を立てて岳人がの座っているブランコに後から乗った。
ブランコとの隙間に足を入れて立っているのだ。

「スカート汚したらゴメンな」

と言うと体を揺らし始めた。

「二人乗りは危ないよ?」

心配そうに岳人を見上げると

1人だったら出来ないしっ」

体を大きく揺らす。
その揺れと共にブランコも揺れを大きくする。

「うわっうわわっコワッ」

ぎゅっと体を強張らせて目を閉じる

「こんな気分っ!」

岳人は笑いながら言う。

「ええ?」
「跳んでる時、こんな気分」

楽しそうな声にはそっと目を開けると目の前は空だった。

一瞬、ビックリした。
 「とぶ」 という言葉がすぐに頭のなかに出てきた。

すぐに地面が見え、ただブランコに乗っているのだと自覚するのだが

「岳人っ!」
「なんだ?」
「楽しいっ!」
「よかった」

ブランコをこぐ力が一層増した。






















「ねぇ岳人、部活いいの?」

楽しむだけ楽しんだ後、はポロッと言った。

「あ゛っ」

時計を見れば5時過ぎ。
まだ間に合う。

っ! 俺は部活に行くけどお前はどうする??」
「鞄教室だから取りに行って帰る」
「おしっ! じゃあ行くか?!」
「私は歩いて行くから、岳人は走って行っちゃっていいよう」

一瞬迷ったもののこれ以上遅刻して(遅刻くらいでそうなるとは思えないが)レギュラー落ちしてしまっては洒落にならない。

「じゃあ俺は行くから! は気をつけて学校まで戻ってくるんだぞ? 車と知らない人には気をつけるんだぞ? お菓子もらってもついてっちゃダメだかんなっ!
「わかってる。それに、中3に言うセリフじゃないし」

ぷくっと頬を膨らませるに微笑むとその場から駆けだした。

しかし

「ねぇ岳人」

の声につい足を止めてしまう。
振り返ると

「また、ブランコ乗ろうね」

にっこりと笑うがいたので、これはこれでいいか。とこのままの関係を暫くは続けようと思う岳人であった。
































「どう思う?」
と聞かれれば
「跳びすぎ」
としか応えようがない男。



「別の意味では?」
と聞かれれば
「一緒にいると楽しいから好き」
という返事が岳人の耳に届くのは明日の出来事。





そして、向日岳人の想いは少しずつに伝わりだす。





















***いいわけのような あとがき***
3100hit 朝比奈 港サマに捧げさせていただきます。
岳人夢とのことでしたが、いかがでしょう?(ドキドキ)
なんだか甘々要素のない夢ですが、よければもらってやってください。