「不二は…どこへ行った?」

部活終わりの部室で部長が一言呟いた。

魔王はどこへ行ったかと。



■夏、夜■



「そこら辺にいませんか?」

キョロキョロと辺りを見回したいが出来ない。。
声がしないことからまだこの場にいないのだろう。

「いないみたいですね」

委員会の仕事が終わったら部室で待っててねv

って言ったくせに言った張本人がいないってどういうことですか?
しかーも…部活後の部室って皆さんが着替えるじゃないですかぁっ!!
「出て行きますっっ!!!!」
って言っても
「いや、いていいから!!(不二が怖いっ!)」
不二くんに脅えた皆さんが引き止めます。

背中の後で生着替えです!!
「ああああああああああっっ」(心の叫び)
この状況はーっっ……たっ耐えられませんっっ

はやく不二くん来てくださいーっっ

「そーんなに壁凝視しなくてもいいのに〜」
後で菊丸くんが笑ってます。
「着替えって言っても素っ裸になるわけじゃないんだし〜。にゃはは☆」

そそそそそそんなことを言われましてもですね。はい。
私には皆さんの着替えが終わるまで壁を見続けることしかできませんっ!!

辺りだったらここぞとばかりに写真撮っているだろうな」
「だっねー。ちゃんならやるね」

ごめん、
乾くんと菊丸くんに反論できない。
むしろ一緒になって言いたい。
ならその写真売るよね!」って!!

「全く不二はどこに行ったんだ。を一人残して」
「さっきまでいたんだけどなぁ。英二、知ってるか?」
「知らにゃ〜い」

あーもーっどうでもいいから、なんでもいいから
はやくはやくはやく来てーっっ
不二くんはーやーくーっっっっ

先輩。お先っす」

壁に向かって座っている私の隣に越前くんがやって来た。

「はいです。今日も桃城くんと帰るのですか?」
「桃先輩はもうとっくにいないっす。今日は歩き」
「そうですかぁ。では、お気をつけて帰ってくださいね」
先輩も…」
「…はひ。はやく帰りたいです」

涙をこらえて越前くんを見送ります。
ヒラヒラと手を振っていると


ゴンッ


越前くんが扉を開けると、鈍い音がしました。


「…ごん?」


その音に驚いて扉の方を向くとそこには

「もう帰るの? 越前」

ものすごい笑顔の不二くんが立っていました……。


「っぎゃ――――――――!!」
その笑顔に菊丸くんが悲鳴をあげます。

「ふふふふふふふ不二くんっ越前くんは悪気になんて微塵もないんですよ! わかってあげてくださいね!!」(あわわわわわ)
、そんなに慌ててどうしたの?」

不二くんはスルッと不二くんの脇を通り抜けようとした越前くんの肩をガシッとつかんで

「越前、もう帰るの?」

「…………残れってことっすか?」

可愛そうに越前くんは強制的に残されるようです。
ついでに

「皆もまだ帰らないよね」

皆さんも――……












「ところで不二くん、コンビニに行ってたのですか?」
大きな袋を3つ持っています。
「うん。とやりたいことがあってね」

着替え終えた皆さんを引き連れ、外に出ます。
どこかに行くのかと思ったら部室前で

「じゃあ始めようか」

不二くんは持っていた袋をグルッとひっくり返すと中から
バササーッと

「花火?」

花火が出てきました。
そりゃもう大量に。

「買い占めてきちゃった」

買い占めたって…いくら使ってるのですか??!!

「不二くん…」

呆れます。はっきり言って呆れますよコレは。

「英二、火の準備して。大石はバケツに水。手塚は何もしなくていいよ、文句言うだけだろうし。越前は花火を出すの手伝って」

不二くんってばウキウキで皆さんを仕切ってますし…
皆さん従順に従ってますし……

なんでしょう…もう……

は今年もう花火した?」
「…まだ…ですけど」
「僕もなんだ。一緒に今年初めての花火だね」

そんなことで、そんなに嬉しそうな顔しないでください。
なんかもう、こっちまで

「そうですね」

嬉しくなっちゃう。




―花火って絶対人に向けちゃいけないんだよ」
「知ってます」

不二くんがまともなこと言ってます。
どうしたのでしようか?????

「でもね、人型の猫には向けてもいいんだよ。えーいっ」
「に゛ゃ――――――っっ」
「不二く――ん??!!」

花火を持って菊丸くんを追い掛け回してます。
「あついにゃ――っっ」
「あはははは」
うわぁ……すごい……楽しそう……(不二くんだけが)

さん英二なら(たぶん)大丈夫だから、不二と目を合わせないほうがいいよ」
「大石くん…そんな…爽やかな笑顔で…そんなこと」
「賢明な判断だ」
「手塚くんまで…」
先輩、次の花火っす」
「…ありがとぉ」

ごめんねごめんね菊丸くん。
私どうやらアナタを助けられない。



花火が消えてしまった不二くんが戻ってきて、転がっていた花火を拾い上げました。

、ロケット花火ってね…」
「それは絶対人に向けちゃダメですっ!!」
「人型のね」
「人型の猫にもダメですよ!!」

「だめ?」

「可愛く言ってもダメですっ! 菊丸くん逃げてくださいっっ」
「に゛ゃーっっっっ」(逃)

菊丸くんはそれはもう信じられないくらいのスピードで走っていかれました。
よかったですね、逃げれて

「あーあ。が逃がしちゃった」
「う゛…」

隣に…怖いモノがいます……
ソレは私の肩をガシッとつかんで

「じゃあ、これからはが相手してよねv」

と微笑んでいらっしゃいます。

き…菊丸英二……戻って来い……

「ヤですっ」
だってだって花火向けられたら熱いですっ!

「花火、には向けないよ」
「ほ…ほんとですか?」
「当たり前。大事な人を危険な目には合わせられないよ」
「(疑惑の眼差し)……」
「じゃあ、花火もうしないから」
「(まだまだ疑惑の眼差し)……」
「花火から遠いところで2人で話しよう?」
「……そ……それなら」
「いい?」
「はい」

ということで、残った花火は大石くんと手塚くんに押し付け私は不二くんに連れられ夜の校舎へ……

「いやですーっっっっ!!!!」
「どうしたの?」

どうしたって!!
お前がどうした? 不二周助!!
夏だぞ? 夜だぞ?? 校舎だぞ????

「……校舎は…嫌です」
「でも、外だと蚊とか…」
「蚊でも何でもドンと来いですっ! 絶対校舎内は嫌ですっっ!!」

夏+夜+学校=怖い
じゃないですかぁ!
いくら不二くんと一緒だからって怖いものは怖いです。
不二くんならそこらの悪霊より断然強いと思いますけど、嫌なものは嫌っっ!

「もしかして…怖いの?」
「……こわくなんて…ないもん」
「(か…可愛い……)校舎やめて、あっち行く?」
「行く」

あっちっていうのがドコだかわかりませんが、校舎よりマシ! 絶対マシ!



そして向かったのは


「プール?」

「ココの鍵壊れてるって知ってた?」

プール入り口を閉めている南京錠はあっさり解かれ、入り口は開いた。

「で…でも」
プールだって怖い系の話たくさんありますし…

「ここだったら少しは涼しいしね」

不二くんは私をおいて、なかへ入ってしまわれました。
つまり…これは…来いということで…

「うう…」

こわいですーっもう帰りたいですーっっ

プールへと続く短い階段を上っていると

ピチョーン

ドコからともなく水音がします。
こここ…こわいですーっっっっっ


、はやくおいで」


プールサイドから不二くんが手招きして私のことを呼んでます。

駆け寄って、プールに蹴り飛ばして、逃げ帰りたい…


「なんですかぁ?」
「そんなにおびえることないよ」


おびえるなと言われましても、怖いものは怖い…


しかも…不二くんが座ってる飛びこみ台…
4番…だし……


「もう、帰りましょうよう」
にいいもの見せてあげる」
「いいもの?(まさかまさか悪霊の友達さんですか?! 魔王ならありえますっ)」


私がビクビクおびえていると、不二くんは右手の人差し指で『あっち』とばかりに校舎の方を指差します。

こっ…こわっ!!

何ですか? 何がいるのですか??
見たくなてっ見たくないですっっ!!

思わずギュッと目を瞑ると

ふわっと自分の体が浮きました。

こっこれは! 心霊現象??!!

慌てて叫ぼうとしたら

バッシャーンッ!

体が落下して、冷たい感覚と水の音。

「……?」

「一昔前の青春ドラマみたいでしょ?」

見上げれば笑顔の不二くん。

そして私の水の中。
つまりプールの中。

「ふ…ふじくん?」

落としやがりました。この男、私を落としやがりましたのことよ。(怒)

「じゃあ僕も」
「え?」

パシャンッと不二くんまでプールに入ってこられました。

「え? え??」
わけがわからなくて混乱していると
は泳げる?」
不二くんがこんなことを訊いてきました。
ですから
「…浮けます!」
と、答えました。
「上出来。じゃあね、上、見て」

まだ混乱しつつも上を見ると

「?」

そこには空。

『うわぁ綺麗』と言えるほどの星空でもありませんし。
ただの夜空です。
星はチラチラありますけど…

「これがどうかしたのですか?」

「次、水面見て」

相変わらずわけがわかりません。
上を見ろって言った後は下を見ろ。です。

「?」

やっぱりこっちも普通に水です。

はて?

「今日がもっといい天気で星がたくさん見えてたら、水面に星がうつって綺麗なんだよ」
「そうなんですか」
「うん。今日は見れなかったね」
「…はい」

ってことは私濡れ損ですか?!

「でも、僕はとっておきの秘密兵器を持っています」

不二くんは片手で私の顔をおおうと

「ちょっと目瞑っててね」

言葉に従い、目を閉じました。

すると

ポチャン…ポチャ……

と何かが水に落ちる音がいくつもします。

「不二くん?」
「もう少し」


その音が20回近く続いた頃


「目、開けていいよ」
顔から不二くんの手が外されました。

「?」
、もう一度空見て」
「??」

言われた通り上を向きます。
さっきと変わらぬ夜空。
ただ、さっきよりは少しだけ雲がなくなって星が増えたような気がします。

「じゃあ、今度は水面見て」
「?」

また変わらない水面でしょう?
そう思いながら下を向くと


「え?」


水の下、足元でぼうっと光る何か。


「コレ…何ですか?」

黄色のような、黄緑のような淡い光。

「星のカケラだよ」

「は?! 何言ってるのですか?」

「…は変なところが現実主義者だよね」

ああ…なんだかガッカリしてます。
……確かに今のは女の子らしからぬ発言でしたね。

「光る石だよ。ちゃんと光ってるね、よかった」

「そうなのですか」

「綺麗でしょ?」

「微妙に」

「本当は流れ星一緒に見たかったんだけど…それはまた今度ね」

「……はい」


どうしてプールに落とされたのか?とかは釈然としませんが
これはこれでヨシということにします。



「おいおい2人とも風邪ひくぞ」
石を拾ったり、水をかけたりして遊んでいると大石くんがやって来ました。
「全く…」
手塚くんもいらっしゃいます。
「あわわっごめんなさいっ」
慌ててプールから出ようとすると

「うっわーうっわー2人でプールで遊んでるーっ」

菊丸くんまでもがやって来ました。

「もしかしてー落ちちゃったの?? バッカだにゃー」

と笑っていらっしゃいます。

「……、どうして僕がこんな石持ってたかわかる?」
「え? いえ」
「それはね」

不二くんは手に握っていた石をビュッと投げました。

「にゃーっ?!」
「不二くん?!」
「英二を狙うためだよ」(にっこり)

不二くんはプールから出るとまた石を投げます。

「暗闇で見えない石が飛んでくるのと、微妙に見える石が飛んでくるのではどっちが怖いと思う?」
「どっちもです!!」
「では、動体視力のいい人型の猫にはどちらが怖いでしょう?」
「見える方が怖いんじゃないんすか? 石だし」
「越前、正解。見える方が向こうも逃げるし狙いがいがあるよね」

そしてまた1つ投げます。叫び声も聞こえます。

先輩、タオルどーぞ」
「……ありがとぅ」

ごめんね、ごめんね菊丸くん。
私どうやってもアナタのことを助けられないみたい。

ああ…もう…不二くん…ものすっごい楽しそう……









菊丸くんの叫び声がこだまする、そんな夏の夜。










5000hitの美里様に捧げます。
『魔王様と私』からの番外編。とのことでしたが、不発な気がします…
ごめんなさい。
こんなのでよければ、もらってやってください。