ぼーっとテレビを観ていると、ピンポーンとチャイムが鳴って、「…誰?」と思っているとカチャ…と鍵の開く音。時計を見るともう真夜中。「こんな時間に?」不思議に思う。

だって

私の部屋の合鍵を持っているのは実家の親以外では彼だけだから。

「こんばんは、さん」

周助だけだから…




■深夜の訪問者■




私はソファに座ったまま、玄関の方を見る。

「…どうしたの?」

周助は靴を脱いで上がってきていた。

「ちょっと…ね」

そのまま歩いてきて隣に座った。

「中学生がいいのかなぁ…こんな時間に」
「こんな時間じゃないと会えないでしょ?」
「…あぁ…ごめんね。最近残業続いちゃって」

私は社会人。周助は中学3年生。歳の差は…考えたくないくらい…。
それでも、恋をして、そして付き合っていたりする。

「あ…なんか飲む?」

私が立ち上がろうとすると周助が服の袖をつかんだ。

「いらない。そんなことより傍にいて?」

顔がボッと赤くなるのを感じる。
周助は子供じゃないけど大人じゃない。
だから子供が言うには大人びた、大人が言うには恥らうようなセリフをサラリと言う。

「…もぅ、あまえんぼさーん」

なんだか笑みがこぼれる。
座りなおそうとすると

「あ、こっち」

と、周助に座り位置を指定された。
ポスポスと座れと催促されている。
しかし…

「……」

無言にもなるよ。
だって周助が座れって言っている場所は周助の足の間。
大きく開いた足の間に座れと言うのだ。

さん?」
「…なんでやねん!」
「関西弁?」

クスクスと周助は笑う。
笑ってるけど、そんな場合ですか??

「なんで…ソコなの?」
「いいからいいから、ね?」

周助は一度言い出したらきかない。
拒否っても何しても諦めない。
そういう人…ってわかってるんだけどね…
でもホラ拒否したくなるじゃない?!
無駄だとわかっていても…!

「……しかたないなぁ」

私は諦めてソコに腰を下ろした。

「……」

なんだか凄く恥ずかしくなる。
近すぎる距離、少しだけ触れ合う体。すぐ傍に感じる体温の温かさ…

「やっ…やっぱさ」

普通に座ろうよ。そう言いかけた時

「寄りかかっていいよ」

と言う周助の言葉。

「…は?」
「寄りかかって? 人間座椅子…なんてね」

ちょっと待って、周助さん。
これ以上恥ずかしくさせる気ですか?
もしやこれは何かのプレイですか??!!(いけない私ったら! 恥ずかしい!!)

「ちょっ…え? きゃっ…」

私が躊躇していると後ろから抱きしめられた。
そしてグイッと後ろに引かれ、『周助に寄りかかったまま抱きしめられている』という体勢になってしまった。

「ちょっと周助っ!」
「…さん、今まで何してたの?」
「え?」
「仕事から帰ってきて疲れてるのにすぐ寝なかったのはどうして?」
「…それは」

確かに疲れていた。
すぐ眠ろうと思っていた。
けど、できなかったのだ。
疲れている。眠りたい。けれど、眠れない。
明日も朝早いのに眠れないのだ。
だからただ、ぼーっとしていた。

「顔色悪くて、目が真っ赤…。なのに仕事はたくさん、忙しい毎日。さん大丈夫かなーと思って今日来てみました」
「……ありがと」
「ねぇさん、忙しいってどういう字を書くか知ってる?」
「? いそがしい? こう…だよね」

目の前にある周助の腕に指で『忙』と書く。

「そう正解。『心』を『亡くす』で忙しい」

ぎゅ…と私を抱きしめる力が強くなる。

さんの心、職場で亡くしてきてない? 今『心』ある?」
「…周助?」
「だからね、僕は今日持ってきたんだ」

ちゅっと後ろから耳元にキスされた。

「もぅ…くすぐったいよ」

耳元でクスクスと笑われ、そして優しい声でこう囁いた。

さんに『安らげる心』持ってきたよ」

「それって…」

「今夜はずっと傍にいるから…」

「あ…ありがと…」

心地好い体温、好きな人の声。
その人に体をあずけると微かに聞こえてくる心音。





「…あ…なんか眠くなってきたかも」

「眠っていいよ。ずっと傍にいるから」

職場ではずっと気張っていて、それが家に帰っても抜けなくて…
だから疲れているのに眠れなかった。

だけど今は

「なんか安心した…」

「だから言ったでしょ? 『心』持ってきたって」

周助の声が遠くなる。
ふわふわとしたいい気持ち。
そして私は――…



「おやすみ、さん。いい夢を…」















ここに遊びに来てくださった全ての皆様に「ありがとうございます」という気持ちを込めて書きました。
本当にありがとうございました!

パチパチイチゴ・アコ。