その日、は頭のネジは何本か吹っ飛んでいたのかも…しれない。




■熱血バレンタイン■





「ヤモリ? イモリ? どっちでしたっけ? イモリ…いえ、ヤモリ…ですよね!」

ブツブツと呟きながら校庭をウロウロしている。

「蜘蛛の巣は採取しましたし、変なキノコもありました。あとは――…」

怪しげな古い本を小脇に抱え、ガサゴソと木々の間を突き進む。

「ヤモリ…といいますかトカゲのしっぽですっ!」







どうして若き乙女がトカゲを欲しているのかと言うと、二日前の不二の一言。

「これ…いいな」

いつものように図書室で作業をしているの前でボソッと言った一言がキッカケだった。
不二が読んでいた本は古い洋書。
中学校にあっていいものではないような気がする黒系の洋書。
つまり魔王様の教科書…
それを熱心に読みながら、ボソッと言ったのだ。

はそれを聞き逃さなかった。

こっそりとその本を覗き、ページ数を覚える。

そして不二が読み終わり、部活に行った後覚えておいたページを見たのだ。


「何ですか…コレ……」


頭が痛くなるような英文。
そして、薄気味悪い挿絵。


「ううっ」


半泣きになりつつもページをめくり、目的の箇所を見つけた。


「はい?」


そこに書かれていたのは料理(と言えるのだろうか…)のレシピらしきもの。
頭をフル回転させながら読んでみると、どうやらお菓子の作り方? のようだった。


「ふむ…」


この時、もうすでにの脳はおかしかったのだろう。
いつものなら絶対そんなことは考えないのだが
今日ばかりは


「もう2月ですし…」


脳がゆるく


「『いい』って言ってましたし…」


こんなことを思ってしまったのだろう。


「コレをバレンタインってことで…よくないですか??」


バレンタインまであと二日。
焦りもあったのだろう…
はソレをバレンタインに不二にあげようと…思ってしまったのだ。













そして今に至る…と。


どう考えてもおかしい食材(?)をは必死になって探しているのだ。
もちろん、不二には秘密で。




「ヤモさん、ヤモさん出ておいで〜」


こんなことを言ってヤモリが出てくるはずはないのだが、は探し続ける。


ちゃん、学校で探しても無理だよっ! アルタに行かなきゃ!!」


運悪く通りかかった菊丸がに声をかけた。


「アルタ? ですか??」
「当たり前っ! っかなんで探してんの? 会いたいの?」
「いいえ〜。かわいそうな話なのですが、丸焼きにして刻みたいのです」
「え゛っ?!」
「どうしても必要なんですよ。黒焼き」
「ダダダ…ダメにゃっ! ちゃん殺人はダメにゃっ!! いくら不二に汚染されたか
らって法を犯しちゃダメにゃっ!! しかも国民のアイドルを殺そうだなんて…!」


この日、菊丸英二の頭のネジも数本飛んでいたに違いない。


「え?? 国民のアイドルなのですか???」
「お昼の顔っしょ! みりさんよりも俺は好きっ!」
「ヤモリが?」
「タモリが!」
「「…………」」
「タモリ…さん?」
「ヤモリ…ってトカゲ?」


春が近づくとおばかさんが増えるのであろうか…
この2人が出会ったことでますますの脳はヤバくなる。


「…というワケで、探してるのです!」
ちゃんは健気だにゃ〜(感動)よーっし! 俺も探すの手伝うよ!!」


普通止めるだろう。
しかし菊丸も止めない。

これが彼の過ち。

ここでの脳を正常にしておけば、彼はあんなことにはならなかったであろう…

















ヤモリを探して3時間。
結局ヤモリは見つからず、疲れたと菊丸は休憩を取ることにした。


「いませんねぇ」
「いないにゃー」


ダラダラと座り込んでいると今度はが運悪く通りかかった。


「あんた達、何してんの?」
「ヤモリ探してるの〜」


ぼけら〜と答えたに対し、ネジが吹っ飛んでいると感じたは呆れて


〜? あんた熱あんの?」
「ないですよ」
「(ボケたか…)ヤモリを探してるのね?」
「はい〜」
「しっぽだけでもいいなら、あるけどいる?」
「本当ですか? しっぽください」


…彼女も黒系と関わりの深い人物。
ヤモリくらい…持っているだろう。


「どうでもいいけど…まぁ…ほどほどにね」


乾燥したヤモリのしっぽを手渡すと、はそそくさと退散した。
面倒なことには関わりたくなかったのだろう。


「ありがと〜〜」


ヤモリを手ににっこりと微笑むとはルンルン♪と歩き出した。


「どうするにゃ?」
「あとは混ぜるだけです」


が向かうのはテニス部部室。
目当ては乾のミキサー。


「そういえば菊丸くん部活はどうしたのですか?」


さんざん付き合わせておいて今更そんなことを聞く。


「わ…わすれてたにゃ…」


やはり今日のこの2人はいつもより数倍おかしい…


「そうですか〜」
「まぁいっか〜」


おかしな2人は仲良く部室に向かった。

部室に入るとそこには誰もいなかった。
まだ練習しているのだろう。


「ありました〜乾くんのミキサー」
「よかったにゃ〜」


勝手に拝借したミキサーをどんっと置くと、拾ってきたような食材をぶち込む。


「キノコ入れて〜蜘蛛の巣入れて〜イカ墨入れて〜謎の粉を入れて〜…あとあとヤモリを入れて」


躊躇することなくボンボンとぶち込む。


「最後にチョコレートと牛乳とハチミツ入れて、スイッチオーン☆」


ブガゴッ…グゴッッ……ガゴゴゴッッ

ありえない音をたてつつミキサーは回る。

そして1分と経たないうちにドロのような液体ができあがった…


特製チョコドリーンクッ☆略して汁っ!」
「おめっとにゃ〜」


おばか2人が大盛り上がりしていると


「何…してるの?」


と不二周助とテニスの仲間達がやって来た。


「だぁ〜り〜んvv」


がありえない呼び方で不二に近寄る。


「(ダーリン?)? どうしたの?」
「これ〜バレンタインのチョコなのvv」


はググッとドロのような液体をコップにそそいで不二に手渡した。


「……ありがとう」


不二はニッコリ微笑むとその液体を思い切り

「ふごっ!」

菊丸の口に流し込んだ。


「きゃははは! 菊丸くんが倒れました〜」


はケラケラと笑っている。


その様子を見て呆然とするテニス部員達…


「皆…この二人に近寄らない方がいいよ」


ケラケラと笑い続けるに自分のコートを着せると不二はボソリと言った。


「たぶん2人ともインフルエンザ(または風邪)で高熱だして、いっちゃってるから」







そうなのだ。
不二の言う通り、も菊丸も熱があるせいで変だったのである。
が、しかし本人達に自覚が無いらしく暴走していたのだ。


「じゃあ、は僕が送っていくからソレ(英二)は誰かがなんとかしといて。ちなみに英二が飲んだの…たぶん……これは言わない方がいいね…」


そんな感じでバレンタインは終わった。


のインフルエンザは不二の手厚い看病のおかげか3日で完治し、すぐにいつものに戻った。



菊丸英二はインフルエンザ+ドロのような液体(汁)を飲んだせいで入院。
2週間苦しむこととなった。








不二は明かさなかったが、ドロのような液体はかる〜く体が動かなくなる何かの儀式などの際に生贄などに飲ませる薬であり…
決して…お菓子ではないのだった。










ゴメンナサイッ
最悪グダグタですっ(>_<;)
これ…バレンタイン夢ってことで許してくださいっっ

アンケート第1位、不二周助。
とくに『魔王様と私。』設定で! との声が多かったのでこうなりました。
もうなんか本当にゴメンナサーイッッ