久しぶりに言った気がする。()

「不二くんなんか大っ嫌い」

久しぶりに言われた気がする。(不二)




■ただ ひとつ の■





きっかけは些細なこと。


こんなこと、言わないでおこうって思ってたのに。
冗談でも「嫌い」とか言いたくなかったのに。
でもでもでも――っっ

不二くんがっ! 不二くんがっっ!!

見知らぬ女の子とイチャイチャしてたのーっっっ

しかもです。学校で、です!

すっごい笑顔の不二くんと向かい合ってる女の子の姿見ましたもんっ

後姿でしたけど、スラッとした髪の短い女の子。サイドの髪をみつあみなんかしちゃって、ふわふわのポンポンなんかつけちゃって!(ポンポンなんて私には似合わないですよっ)

断言します!!

後姿しか見れませんでしたけど、絶対可愛いです! あの後姿は絶対絶対可愛いですっ(力説)





「もーもーもーっっ不二くんの馬鹿馬鹿馬鹿――っっ」





ただ話してるだけじゃ別に怒ったりしませんっっ

でもでもでも――――――っっ






? 何に怒ってるの?」







デコピンとか、親しげにその子を触ったり

あげく








「胸に手を当てて自分に聞いてみたらどうですか?」
「?」(胸に手を当てる)










内緒話をしてましたっ(耳元で囁きですよ? 囁きっ!?)











「こんのっ浮気者っ! ばかばかばかーっっ」































「浮気者?」

そう顔を真っ赤にして叫ぶとはパタパタと走って行った。

「するわけないのに、ねぇ?」

誰に言うわけでは無いが疑問形になってしまう。

なにをどう勘違いしたのか皆目見当もつかないが、きっとのことだから……


のことだから……



…………どれだ?!




何を勘違いしたんだ?

今朝は普通だったから、何かを目撃するとしたら授業中か昼休み。

授業中は接触する機会がないから、昼休みか?

『浮気者』ということは女の子といる所を見られたのだろう。

でも――…

今日僕は女の子と2人きりにはなってないし、必要以上に近付いた覚えは無い。

さん?」

何かどうなっているのか分からないっっ!!

妬いてくれるのは嬉しいけど、身に覚えが無いのですが…(慌)

まままままさか、こんなワケわかんないことをきっかけにしてわわわ別れるとか言い出したり



…………しかねないよ、なら





















こうして、不二周助は身の潔白を証明するために校舎を走り回ることとなった。









さぁ、考えよう。
昼休み、僕は何をした?

@英二と昼食を取った。(本当はと一緒がよかった)
A手塚に呼ばれた。(部活についての話)
Bその帰りに乾と遭遇。(立ち話)
C忙しそうにしている大石とすれ違う。(挨拶程度の会話)
D図書室にいるに会いに行く。(奥に入っていたらしく会えず)(哀しい)
E教室に戻る。英二で暇つぶし。(いつもの事)

????????????

女のカケラもないですよ? さん?

記憶に無い。全く無い。
どういうことだ?
何がどうなっているんだ?!

を探しながら考えるが、全くわからない。
自分の好きな相手で彼女という存在だが、という少女はドコが計り知れない。
真剣に考えて間違った方向に進む子なのだ。
その辺がたまらなく可愛いのだが。

の教室に行ってみる。――いない。
さんの所だろうか? 行ってみる。
そこには

「どうした?」
「うわっ目が開いてる!」
乾とさんだけ。

は? 来なかった?」

「否、来なかったが。何かあったのか?」
「あはははははーっ不二ってば浮気でもしてに逃げられたんじゃないのー?」
神妙な様子の乾とは対照的に腹を抱えての野郎が笑ってやがる。
しかもズバリ言い当ててるし。(浮気はしてないけど)
実はこの女、から全てを聞いてを隠してるんじゃないだろうな?

「不二―? 顔、こわいよ? 図星? 図星だったの??」(大笑)
の友達じゃなかったら、この女――……(ブラック降臨)

…からかうのはやめておけ。それで、は?」

この際、のことは存在ごと無視することにする。
これ以上喋ったら強制的に黙らすよ?(くすっ)

「勘違いして、走って行った」
「勘違い、というと?」

わくわくした表情でが見ている。
コイツの前で『浮気』とか言うのは嫌だな。
絶対に大笑いして、「マジで? やっぱ図星じゃーんっ。っーか浮気とか最低っ! 私のを悲しませないでくれる? そんな男には任せられません! を返して!」とか言うんだろう?

「僕が浮気したとかなんとか。何を勘違いしたか知らないけど」(溜息)
「マジで? やっぱ図星じゃーんっ。っーか浮気とか最低っ!! 私のを悲しませないでくれる? そんな男には任せられません! を返して!!
やっぱり言った。しかも一語一句正解。違うのは「!」の多さだけか。
この女、僕の思考を読んでるんじゃないだろうな?

らしい勘違いだな」
「そこが可愛いんだけどv」
「しかしだな、なら」
別れる! とか勢いで言いそうだろう? そして変な所で頑固だから言ったら撤回はしないだろうし」
「早目に誤解を解いた方がよさそうだ」
「解きたくても肝心のがいないんだよね」

そろそろ部活も始まってしまう。
さて、どうしたものか?
もしかしたらテニスコートの周辺にいるかもしれない。
そう考えていたとき。



静かに乾がの(もう呼び捨て)首根っこを押さえた。

「痛いーっバカ乾っ離してよーっセクハラーッ変態―っドリアンーッ」
の勘違いの原因、知っているだろう?」
「知りませ―ん」
「嘘をつくな」
「知りませ―ん」(棒読み)

このクソアマ!(魔王の片鱗)
知ってたのか?! やっぱり知ってたのか?!


「チッ…うっせーなー。言えばいいんでしょう? 言えばぁ」

でかした乾!
(素朴な疑問。君達付き合ってるの? 何か深い関係を今垣間見た気がする)
さぁ吐け。すぐ吐け。全て吐け!!

「なんかぁはね不二が女の子とイチャイチャしてるの見たらしいよ?」
「してないけど」(即答)
「デコピンしたり、内緒話してたって」


…………ん?


デコピン?



内緒話????



アレか? 否、でもアレは……



「なんか後姿では相当可愛い女の子だったって。スラッとしてて、髪の短い」







まさかソコまでは馬鹿じゃないよね?



「頭にポンポンつけた女の子って言ってたよ」
「やっぱり!!!!」



さーん?
勘違いも甚だしいですよ?



「心当たりがあったのか?」
「……ああ。相手って言うのは――」










































女子トイレの鏡の前で自分の髪を編んでみる。
サイドの髪をみつあみにして、ポンポンなんて持っていないから友達に借りたリボンを巻いてみる。

…………ビッミョー(涙)

私のキャラじゃない。キャラじゃないっすよっ!

即効でリボンとみつあみをほどく。
なんだか虚しい……

私は不二くんには不釣合いだと思う。
正直、そう思ってたりする。
不二くんは全てにおいて完璧。
顔も頭も何もかも。
比べて私はー―……
顔は悪くは無いと思う。そこそこ。はっきり言ってそこそこ。一般レベル。
頭もそこそこ。数学だけは最低レベル。
運動神経は……どうだろう? 得意なのもある。苦手なのもある。これも、そこそこ。

自分に自信がない。
だから、すぐ不安になるの。

今日だって…不二くんが本気で浮気したとは思ってない。
不二くんはそんなことができる人だとは思ってない。
でも
不安なの。

すっごく可愛い子がいて、しかも仲が良さそうだと不安になるの。

その子の方が良くなったりする?

私に別れを告げたりしない?

すごく、すごく不安になる。

前から漠然とした不安はあったの。もの凄く可愛い子、何もかもが完璧の女の子がやって来たら、不二くんはどうするのか? って。

それが今日カタチになって現れた。

すごくすごく可愛い子。たぶん性格もいいと思う。しかも親しげ。

近くに寄って行って、「誰?」とか聞きたかった。でも出来なかった。
すぐに昼休みが終わって、午後の授業中ずっと考えた。

あの子はただの友達。
それだけ。それだけだよ。

ずっとずっと自分に言い聞かせた。
でも、不安なものは不安で。
放課後、不二くんの顔を見た瞬間にあの子も後姿もよぎって、ちょっとずつ溜まった不安が一気に爆発して「浮気者」「大嫌い」そう言って逃げた。

最悪。

としか言いようが無い。

身勝手もいいとこ。
不二くんの言い分も聞かず、一人で不安になって疑って、挙句の果てに大嫌い。

こんなんじゃ、本当に嫌われちゃうよ。

嫌われちゃう。





発見」





鏡を凝視していると突然背後から明るい声。

?」
「何してんの? はい、おいで」
「え? え?? なになになに??」

無理矢理トイレから引きずり出され、そのまま背中を押される。

「ちょっ、っ! なに? どうしたの? どこ行くの??」
「あんたの彼氏がお呼びです」
「え?」

心臓が飛び上がった。
さっきの事もある。怒っているだろうか?

怖くて逃げ出したくて抵抗してみるものの、に敵う筈も無く強引に私はテニス部部室まで連れてこられた。




そこには笑顔の不二くん。それにテニス部員の方々。
しかも皆さん顔を真っ赤にしています。
笑いを我慢している。といった表情です。

、本気で僕が浮気するとか思ってる?」

いつもと変わらぬ優しい口調。
いつもの不二くん。

「……思ってません」

「よかった。僕にはもうだけなんだから、変な勘違いはしないでね」(ニッコリ)

ああ、なんだか笑顔が怖いです。
黒の香りがします。

「…はひ」

「では誤解が解けたところで」

ガシッと不二くんが私の肩をつかんで、クルッと体を部室側へ向けます。
目の前には見知った部室のドア。

「驚くよ?」
すぐ近くで不二くんが微笑むと

ガチャッ…とドアが開きました。
そこには人が一人。

スラッとしてて、髪が短くて、みつあみしててポンポンつけてる…………

レギュラージャージを着た女の…子?

「え?」

その子ってばレギュラージャージ着てます。
女テニのではありません。男テニのです!!

ってことは







ちゃん、酷いにゃ」







「菊丸くん??!!」









女の子だと思っていた人は菊丸くんでした。(滝汗)


「もう女の子には間違えられないと思ってたのにーっ」(泣)
「中1の頃はよく間違えられたよね? 僕も英二も」(くすっ)
「もう中3にゃ! 最近はそんなことなかったのにーっっ」(えーんえーん)
「英二が悪いんだよ? 暑くなってきて髪が邪魔とか言ってクラスの子の結んでもらうから」
「暑かったんだもんっ」(プンプン)
「じゃあ切れ?」(にっこり)
「酷いし…」
「ついでに次の時間体育で体操着に着替えてたのもマズかったね。アレじゃあ男女の服装の差無いし」
「にゃーっっ。皆笑ってるしー」(いじけ)


などと言う会話が行われています。
…………そんなことより…………
菊丸くん可愛すぎなんですけど!!


? 謎は解けた?」

落ち込む菊丸くんを宥めつつ、不二くんがイタズラっぽく笑いました。

そして

皆さんの前だと言うのに



「僕はを愛しちゃってるんだから、他の女になんか見向きもしな
いからね」



などと言ってくださいました。

もう恥ずかしいやら嬉しいやら、自分が情けないやら……


「不二くん、ごめんなさい」


反射的に謝ると


「え!?」

不二くんが目を見開いて驚いて

「今のって…どれに対するゴメンナサイ?」

どうやら「愛しちゃってる」発言に対してのゴメンナサイだと思ったのか不二くんが慌てています。

ああ、もう可愛いなぁ。

私は不二くんのように皆さんの前で堂々と言えないので、不二くんの耳元で言います。

「私も不二くん以外目に入りません」

そう言うと、不二くんは照れて

「僕は世界一の幸せ者だね」

と言ってくださいました。

だから私も

「私も幸せ」

そう言いました。


この時は確かに幸せでした。



目の前に『幸せ』というものがハッキリ形として見えるのではないかと思うくらい。



この幸せがずっと続くのだと、心から思っていました。

この幸せが長く続きますように。

願えば叶うと思っていました。

この幸せは崩れないと思っていました。



でも




いくら願っても、思っても





崩れる時は、崩れるのです。











そんな日が来るとは知らず、この日の私は笑っていました。

















「ただいま」






そう――この人が戻ってくるまでは。





















***反省***
不二様久しぶりの更新でございます。

最後の最後で誰か出てきましたね(くすっ)
忘れた頃に出てきましたよ。(くすくすっ)

さてさて次回からが書くの楽しみです。(ふふふっ)