友達と笑いあう、この瞬間に
事が大きく動くなど思ってもいなかった。








「ちっちゃな頃からエセ笑顔♪ 15で魔王と呼ばれたよ♪」
「英二? 何の歌?」
「……(うっかり口から…)」


僕は――否、僕たちは分かっていたのに、気づかなかったんだ。

潰すならだって

分かっていたのに

気づけなかった









■ひとつ■








すぅ…って体に力が無くなったのを感じた。
同時に頭の中もからっぽになった。

目の前で涙を流す人。
その人から出た言葉。

その言葉に

どうしていいか、わからなくて

わからなくて

でも

何か、何か、言わなきゃって思って

そして出た言葉が




「ちょっと…まって」




だったと思う。

他に何か言ったかもしれない。
もしかしたら「ちょっと…まって」という言葉すら言っていないのかもしれない。

ふと気づいたら空はとっくに真っ暗になっていて、そして、私は自分の家の部屋のベッド
の上で正座していた。

手が、体が冷たくて
なんだか自分の体じゃない気がした。








「どうしよう」
  
どうしたい?

わけわかんなくて、でも考えなきゃいけなくて…

だから

頭を必死で動かすけど

回る言葉は ひとつ だけ





 「さん、周助と別れて」





この ひとつ だけ


「別れる?」
  
別れたくない

「でも、錦ちゃんが」
  
それを考えると

「どうしよう…」
  
…………ねぇ、不二くん

「私、どうしたらいい?」
  
ねぇ、不二くん……
  今、無性にあなたに会いたい


















「ちょっと、まって」
そう言った翌日

「おはよう」

錦ちゃんは普通に微笑んで、私の隣を歩いた。

「…おはよぅ」

何故だか錦ちゃんの顔を見ることができなかった。
錦ちゃんの前で笑うことができなかった。


「昨日は――ごめんなさいね」
「え?」


睫毛を伏せて微笑んで錦ちゃんは続けた。


「無理なこと言って」
「…えと……」
「……最後くらい、好きな人と一緒にいたかったから」

さいご…

「さいご…とか言わないで…」
「最後…なのよ」



胸が痛かった。
ズキズキした。


涙が出そう。


痛くて、痛くて

涙が出そう。


「あなたに会えてよかったわ」
「錦ちゃん?」
さん、あなたに会えてよかったわ」
「……」


不二くん…


わたし…
































最愛の人。大事な友達。





不二くん 不二くん 不二くん……



ごめんね…



あなたのことは すき だけど

でもね

錦ちゃんがね…



譲るとか、そんなのじゃないけど

けどね

私、このままじゃいられない

錦ちゃんの前で、笑えない。









ごめんね。ごめんね。









ふたり とも すき だから


だから


余計に 一緒 に いられないよ









ごめんね。





























ずっと いっぱい 考えたの。

「ちょっと、まって」

って言った日から、ずっといっぱい考えたんだよ。



でもね、やっぱり

私は この答え しかだせないの。




あの日から、丁度一週間。




これ以上考えても、同じ答えしか出せないよ。
錦ちゃんの時間…無駄にしちゃダメだよね。


だから だからね














放課後の、廊下で












「不二くん」



笑って。
泣いちゃダメ。
笑って――そして




「どうしたの?」






右手の中に冷たい感触。
あなたにもらった、あの指輪…







これを、本当は返さなきゃいけない…けど







返さなくても、いいですか?






この指輪を あなた だと思うから














ぎゅっ

と、指輪を握り締めて















「ねぇ不二くん」













こんな言葉、言うなんて思ってなかった。



思いたくもなかった。















「…別れよう」
















今回言い訳無し。
だって…ありすぎるから