■でも いちばん大きいのは■




不二周助とが別れた。

そのことが学校中に知れ渡ったのは、が不二に別れを告げて二週間後の事だった。

会話をしなくなった二人を見て、笑わない二人を見て、誰もがいつものケンカではないと察する。
そんな時に

「あの二人…別れたみたいよ」

という女子生徒……こと、笹馳錦の一言によりじわじわと広がっていったのだ。







視線が痛いです……

私、はただ今自分の教室にいるのですが……

その…四方から視線を感じます。

敵意…とか、そんな冷たい視線ではないです。
だからと言って、温かい視線でもないのですが…
ただ見られている。と言ったトコロでしょうか…

きっとアレでしょうね。

不二くんと別れたから…でしょうね…

昼食を終えて、一息ついていると

、数学の宿題みせて」
「……私のみても無駄だと思うよ」

目の前に一人。
この一人が以前と変わらず接してくれる唯一の人物。

の性格からしてそうだとは思ってたけど…

テニス部員の方も変わらず接してくれようとしている。
でも、多少の違和感は感じる。
菊丸くんなんかは明らかに変だしね。

……当たり前の話だけど…………不二くんとは話してない。
会ってもない。
会わないように…してる。

携帯からもデータを削除した。
部屋にあった不二くんを思い出してしまうような物はしまいこんだ。
ただひとつ、ポケットにはいってるこの指輪を除いては……

「ねぇ、今」
「なに?」
「今――…」
「なぁに?」

にしては珍しく真剣な顔してます。
どうしたのでしょう?
お腹でも痛いのでしょうか?

「無理してない?」



ビックリした。

体がビクッてした。時間が止まったかと思った。

こんなこと…言ってもらえるとは、思ってなかったから……


「……無理ってなぁに? 元気元気☆」


無理するくらいが丁度いい。

気を張ってないと壊れてしまいそうだから。



「それならいいんだけど…頼ってもらえないのも淋しいから。それだけは、わかってて」



本当は、今すぐにでも頼りたい。
泣きたい。
全部全部言いたい。
言って何かが変わるわけではないけれど、全部一人で心にしまうのはツライから。

私の選択…間違ってなかったよね?

そう尋ねたい…


「ありがとう。頼るときは頼る。ってことで数学の宿題は私に頼らず自分でやれ。(多分その方があってるから!)」
「めんどくさい」
「じゃあ乾くんに頼れっ!」


あっ。て思った。
アッサリ、サラッと不二く……じゃない…、あ…あの…人に近い人の名前を言ってしまったから。


「あいね!」

ぽんっと手を叩くとは立ち上がり

貞治いたね!」

ノートとペンを持ってタタッと教室から駆けて行った。
ドアの所で

「あとで解答見せるからね」

と、言って。


ちょっと待て、
今、今さぁ
乾くんのこと
『貞治』
って言った?
言ったよね??
言いましたともさ!!

なになになになに???
どういうこと?????
ま さ か !?
ひっついた?
くっついた?
デキた??????


ちょとちょとちょと??


はやく戻って来――いっっ!!

























「くぉらドリアン! お前、おとなしく自分の教室にいろよっ!」
バンッと足で扉を開け、がノートを手にやって来た。

ここはテニス部部室。
なかには乾、手塚、大石――そして不二。

「うわっ男ばっか。ムサッ!
…」
「……なぁにー? 深刻な話でもしてるの?」
「そう見えるんだったら…そうだな」
「んー…そうじゃなかったら…ホモの巣窟?
…」
はーそうゆーの全然偏見持たないよ☆」
…」
「はいはい。ごめんなさーいっ」

はニコッと笑うとその深刻な空気漂う部室内へと踏み込んだ。
これがでなく他の部員だったら扉を開いた瞬間後悔し、謝り、すぐに去るだろう。

「で、どーしたの? しうすけくん」
「……」

ドカッと不二の目の前に座る。
その場所には乾が座っていたのだが、蹴落としたのだ。

「ヤッダー。くらーいっ。このしうすけ暗いっ!」
…不二で遊ぼうとするな」

ポソッと耳元で乾が囁く。

「わーったよぅ」

は渋々頷くと
パチンッと指を鳴らし

「秀一郎、状況説明」

「(秀一郎? 何故名前呼び…)…説明というと…」
「しうすけはどうしたワケ?」
「えーっとその」
と別れたからヘコんでるってこと?」
「(うーわー直球っ!)……」
「どうして私が状況説明してんのよ?!」
「ああ…ごめん」
「もういいわ…9232!」
「数字で呼ぶな!」
「いいじゃない。ポケペル(初期)では便利で」
「よくない! それにもう時代は携帯だ!」
「じゃあ塚―っ」
「(まぁいい)何だ?」
「どうしてさっきから、しうすけ一言も喋らないの?」
「最近口数が減っているのは確かだな」
「喋れよ、しうすけー」

ノートからはさんでいた下敷きを取り出すと不二の頭に擦り付ける。

「静電気〜☆」
、いいかげんにしろ」
「だってドリアンの頭じゃできないっしょー。しうすけくらいサラサラじゃないと」
「…公衆の面前で『』って呼び続けるぞ」
「イヤッ!! 気持ち悪いっっ!!」
「……じゃあ、やめろ」
「はいっ!!」
「(なんていい返事をするんだ…)」

パタンと下敷きをしまうと、「よっこいしょっ」とが座りなおす。

すると、大石が口を開いた。

「あのさ…不二は、その…さんに一方的に理由もなく別れを告げられた。って言ってたんだけど、本当なのかな? ほら、さんはさんの友達だろ。だから、何か聞いてないかな? その……笹馳さんが何か言ってきたから…だとか」

一方的に理由もなく別れを告げられた。
実際あの会話を聞いていたと乾は、間違ってはいない。と思った。
別れの理由も、今までの2人を、そしてという人物を知っている者なら耳を疑うような理由だった。
何かがあったのは間違いない。
そして、その何かは笹馳錦だということも間違いない。
でも
行動を起こしたのは
つまり、が何をされたかを言わない限り、わからないのだ。

笹馳を叩いても、すぐにが反抗するだろう。
そしていっそう不二を遠ざけるだろう。

全くあの女はうまく事を運んだものだ。


「別に何も聞いてないよ。ただ」


が言葉を詰まらせると不二がパッと顔をあげる。



「ただ…どうしたの?」



今日はじめての前で言葉を発した。

すがるように問う不二には胸が痛んだ。

「ただね、毎日つらそうにしてる。淋しそうにしてる」
「…………僕は…がわからないよ」
「私もよ」
「笹馳が何かしたのならすぐに僕に頼ってくれていいのに。なのに……どうして「別れよう」なんだ?」
「別れないとさん自身に危害を加えると脅された…とかありえそうだな」

ぼそっと大石が呟くと、すぐに

「それなら僕に言うべきだ。僕は必ずを守るのに」

「ちょーっと待って!」
大声でがその会話を止めた、

「あのさぁ…の性格から考えて、それはないよ」

ジィッと不二を睨みつけると

「秀一郎・しうすけ、頭冷やしな。あんた達今までの何を見てきたの? あの子の性格、まだわかんないの? どうしようもないくらいのアホなくらいのおひとよしなんだよ。ついでにバカがつくくらい素直

クルクルと持っていたノートを丸めると
パコンパコンと大石と不二の頭を叩いた。

は…誰かを傷つけて自分を守ろうとはしないよ。別れることで、しうすけ…あんたを守ろうとしたんじゃないの?」

「…え?」

「笹馳さん? だっけ。なんかいかにも嘘くさい性格極悪そうなヤツが考えそうじゃない? どういう風に言ったのかは想像もつかないけど「不二を傷つけたくなかったら別れて」とかさ。そんな事言われて超おひとよし単純バカが考えることっつたら身を引くってことじゃないの?」

「……」


「これさぁ言うべきかどうだか迷ってるんだけど…言ったらしうすけ暴走しそうで…」

ぽりぽりと頭をかきながら不二をチラッと見る。

「何?!」

「下手な行動取らないって約束できる?」
「…約束する」
「そう…あのね」

ポンポンッとスカートの腰の辺りを叩きながら

ね、最近ずっとポケット触るの。何か中に大切なモノ入れてるみたい」
「それが…?」
「ソレを絶対ポケットから出さないの。絶対誰にも見られないように」
「……」
「あくまで推測…だよ。ポケットに入る大きさで持ち歩けて、誰にも見られてはいけなくて、でも肌身離さず持っているものって、しうすけ関連のモノじゃないの?」
「それって…」
「例えば…あの…指輪…とかね」
「あ…」
「返されてないんでしょう?」
「…ああ」
「じゃあがまだ持ってるってわけよ。嫌いになったら真っ先に返すであろうモノを」
「っ」

ガタッと立ち上がる不二を

「はいストーップ!」
バチコーン☆
「っ!」
が思い切り頭にチョップを入れて止める。

「まーさーか、今すぐのトコ行って指輪持ってるかを確認して持ってたらまだ自分のこと好きなのかって問い詰めてついでに笹馳のことまで聞いちゃってうまいこと全部言ってくれたら笹馳なんとかしてとヨリ戻して万々歳! とか思ってないわよね?」

「見事な早口だな」
「はーいドリアンは関心してないでこれからどうするべきか考えて。しうすけは冷静になってね」



時計を見ると授業開始まで10分とない。

「塚と大石は」
チョイチョイと呼び寄せると
ノートを手渡し
「コレ解いてて」
拒否権なしの微笑で数学の宿題を押し付けた。


「まず、笹馳がに何をしたのか、を知らないとな」
「そーね。どうやってに言わそうかしら」
は頑固者だからな」
「そーなのよ」

うーんうーんと悩んだあげく



「ヨリ戻したら?」



と笑顔で言った。


「は?」


その場にいた者が全員の顔を覗き込む。

「だーかーらー、しうすけが笹馳錦とヨリ戻すの。それがあの女の目的なんでしょ?」
「そうだろうけど」
が言わないんだったら、あの女に言わせればいいんでないの?」
「笹馳が口を滑らすとは…」
「しうすけっふぁいとーいっぱーつ!」
…」
「それに私今、たった今気付いたんだけど…………」









ゴショゴショゴショ。







が気付いたこと。
あまりにも簡単で今まで見落としていたことを皆に伝えると

「それも…そうだな」
「言われてみればそうだよな。例えそうなったとしても…そう……だな」
「あはははははは!」

皆納得し、不二は腹を抱えて笑いだした。


「そうだよね。そうだ!」


不二はひとしきり笑うとニッと強気に微笑んだ。



「っあーっ! ヤバッもう授業始まる! 塚、大石、数学終わった?」
「! あと一問っ!」
「15秒で解け!」
「無理だ!」
「じゃあ30秒!」
「1分くれ!」
「じゃあ私は教室に戻るから授業始まるまでに届けろ!」
「え?」
「届けろ☆」
「わ…わかったよ」


にまーっと悪魔の笑みをうかべたが部室から去ろうとすると






「ありがとう」






背後からいつもの不二の声がした。


「あんたの為じゃない。のた・め!」



キーンコーンカーン……

予鈴が鳴った。
授業開始まであと5分。

果たして数学の宿題は間に合うのか!?
授業開始まであと5分。
数学教師にノートを手渡すところを見られては言い訳が大変だぞ!

頑張れ大石!
すでに手塚と乾はと共に去った。



さんの宿題…間に合わなかったら…ただじゃすまないよ」



今回の事で魔王はの味方になった!
敵は多いぞ大石秀一郎!

頑張れ大石秀一郎!!!!!




















・・・その頃

気になる〜
気になる〜っっ
と乾くんは恋人同士????

はやく帰って来――いっっ!!!!




のなかで今週が『皆のことは名前で呼ぼう週間』が開かれていることを知らない
は悩み続けるのであった。




















今回は比較的はやく続きを書けたのではないでしょうか??
さーてさてさて続き…どうしよう……
これから先は…明るいと思います。

先がだいたいわかっちゃってる方もいらっしゃるとは思いますが、知らないフリしといてくださいませっ
アコの脳みそ単純なんでっ。だふん展開よめる…よ……(汗)