■好きだという −後編−■



〔side不二周助〕

「久しぶりだね」

こうして面と向かって話すのは

「そうね」

2年経った。
2年で僕も、錦も変わった。

僕はのおかげでプラスに。
錦は僕のせいでマイナスに。

「ねぇ周助」
「なに?」

風で流れる髪を押さえながら錦は言う。

「私達、やり直さない?」

この言葉を待っていた。
と別れて3週間。

錦から近付いてくるのを待っていた。

「……2年前の事、繰り返したいの?」
「繰り返す……というか、もう一度あの頃みたいに『恋人』に戻りたいの」

わからないなら、教えてやるよ。

「やり直しましょう。ねぇ周助」
「……いいよ」





そう言うと錦は笑った。

嬉しそうに。











そして僕達は付き合うことになった。



























〔side笹馳錦〕


やっと周助の心を取り戻した。

狂おしいほど欲しかったもの。

「周助」

堂々と恋人として名前で呼んでもいい権利。
隣に立つ権利。
この男に愛される権利。

一度は手に入れたのに、手放してしまったもの。
私がいないうちにという女に奪われてしまったポジション。

やっと…やっと…取り戻せた。








「ねぇ周助、今日一緒に帰りましょう」


なのに


「嫌だよ。面倒だし」


これは…どういうこと?


「ねぇ周助? 私達『恋人』よね?」
「そうだよ」
「それなら」
「それでも嫌なものは嫌だろう。僕だって暇じゃないんだ。錦に付き合ってトロトロ帰る時間は無い。ただでさえ部活で疲れてるのにこれ以上疲労を加えさせないでよ」


2年前と変わらない。
むしろ、2年前より酷いかもしれない。


どうして?
私は恋人よね?

なのに

どうして、私を見てくれないの?


「周助…」
「それじゃあ、また明日。気をつけて帰るんだよ」


恋人同士になって6日。
ずっと、こう。


電話をしても、すぐ切られる。
メールをしても返事は少ない。

登下校だって滅多に一緒になれない。

休日も部活と言われ、一緒にいることを断られた。

どうして?



ねぇ周助どうして?



不安が募る。


周助、周助。私を見て。





2年前と同じ気持ちになる。


2年前と同じ言葉を言いそうになる。










周助が何を考えているのかわからないという不安が確信にかわったのは次の日。
付き合いだして丁度1週間が経った日のことだった。






その日の6時限目は学年合同体育で、私達が付き合っているということを学年に知らしめるいい機会だと思った。

やっと堂々とに私達を見せ付けることが出来る日だと思った。


私は体が弱いということにして、体育を見学。
陽のあたらない木陰に腰を下ろし、マラソンの授業を頑張る皆を見る。
タオルを持って、いつでも戻ってきた周助に駆け寄れる状態で。

軽く校庭を走って体を慣らした後、次々と外へ駆けていく。
10分ほどで戻ってくるだろう。


きっと周助は上位で戻ってくるのだろうな。
などと考えながら待つ。

戻ってきたあの人にタオルを差し出したら、喜んでくれるかしら?

そんなことを考えるとクスッと笑みがこぼれてしまう。

そうこうしているうちに時間は流れ、男女のトップが戻ってきた。
まだ周助の姿は無い。

続々と生徒は戻って来るのにまだ周助の姿は無い。

「どういうこと?」

半分が戻ってきた。
まだ姿は無い。

あの周助が平均以下になるなんて、ありえない。



もう殆どが戻ってきた。

まだ周助は戻ってこない。



「どうして……」



まばらに戻ってくる生徒を見つめていると
見知った人物を見つけた。


だった。



トロそうだとは思ってたけど、本当に亀並ね。


思わず笑ってしまう。



けど、私の笑みは固まった。




より後ろに周助の姿があったから。

明らかに本気で走っていない表情。
その瞳が見つめる先は――……



どういうこと?

何ソレ?
何ソレ?

わけのわからない怒りで体が支配される。


まさか…
まさか……



嫌な考えが頭を過ぎる。




「そんなはず…ない」



自分に言い聞かせていると授業終了の鐘が鳴る。

私は慌てて立ち上がると周助にに向かって駆け出す。


その時、とすれ違った。
彼女は私に何か話しかけようとしたけど、無視した。

「はい、周助。お疲れ様」

背中に彼女の視線を感じた。

わざと周助との距離を縮める。

「……暑い」

周助はタオルだけ受け取るとスタスタと歩き出す。
置いていかれないように隣について行く。



不安が、確信に変わる。









そして、その日の放課後。
私は繰り返した、2年前と同じことを






「ねぇ、周助……私達『恋人』だよね?」

放課後、部活前に無理を言って今、二人で話している。

「そうだよ」

「じゃあ…私のこと……好き?」

























〔side不二周助〕

やっと言った。

これで繰り返すことになる。

「ねぇ、周助っ! 私のこと好き?」

懇願するように問う。

その問いに2年前は「どうでもいい」と答えた。

でも、今は

「好きじゃない」

そう、はっきり答えられる。


ピタッと錦の表情が固まる。


「錦…に何て言ったの?」
「え?」
「僕と別れるように、何か言ったんだろう。何を言ったの?」
「別に…何も」
「僕に隠し事をする錦は嫌いだ」


錦の表情がギギッと動く。


ほら、言えよ。
今すぐに。
言え。


「嫌い…とか言わないでよ。私はただ、さんに……」
「何を言った?」
「周助が好きだって…言ったの」
「それから」
「返して…とも言ったわ」
「それだけじゃないだろう? 隠し事をする錦は嫌いだよ」

錦は僕から視線をずらすと

「あとは、私が転校した理由とか、そんなことを言っただけよ」
とポツリと言った。

「理由って?」

「父の仕事の都合と…入院したってこと」

「入院?」
「たいしたことないのよ。ストレスでちょっと倒れただけ」

入院…ねぇ…
ストレス……ってことは胃か?
それか心療内科か?
つまり

どちらも胸部周辺。


ああ、やっとわかったよ。
全くこの女は――が単純なのをいいことに……


「それで何とか理由つけてを引き下がらせたってわけ?」
「……ちが」
「錦、僕はキミが嫌いだ。一生好きにはなれない」
「え? だって私達『恋人』でしょう?」
「それでも」


錦のこの自信はどこからきていたのだろうか?
本気でと僕が別れたら僕の心が錦へ向くと思っていたのだろうか?


「僕の心はだけのもの。僕が愛しているのはだけだ」


















この小説、終わるよ。
って感じです。
そろそろ嵐の元カノ編終了。予定。
っーか終わらせるんだけどね☆

感想等を拍手の一言で言ってくださった方々、ありがとうございました。
この場でお礼を言いたかったの!