風が吹いて、体が熱くなった。





■ただ、それだけ。■










「自惚れて…いい?」



ふわっと風が吹いたの。
一緒に足音がして。
何事? と思ったら、体が熱くなったの。
熱く…というか暑く。

本当に何が何だかわからなくて、認識としては『風・あつい』

で、下を見てみれば後ろから私の身体に回された腕。
細いんだけど、ちゃんと筋肉ついてて、見覚えのある腕。

右肩には、人の頭らしきものがのっかているようで…ちょっと重くて。
その頭の髪の毛が風に揺られて首元をくすぐる。
かゆい。

ああ、つまり後ろから抱きしめられてるカタチなのね。
そう理解した時に
耳のすぐ近くで声がした。



「どうしてがソレをこんなところで探していたか、そんな過程はどうでもいいんだ。それを必要としてくれていたからこんなになってまで、探してくれたんだよね? 結果として、またソレを薬指に…はめてくれるんだよね?」




聞き間違えるはずのない…声。

振り向かなくてもわかる。

優しくて、甘くて、私の一番好きな声。


「…ふじくん」




不二くん!!
そう分かった瞬間、私は思い切り不二くんの腕を振り解いた。
もう突き飛ばす勢いで不二くんから逃げる。




?」


不二くんはビックリした顔で私を見てる。

けど

だってだってだって
私、今……汗だく……なのですよ。

牛丼のつゆだくはOKでも、人間のつゆだくはマズイですって!!

そんな体に、ひっつかれたくありませんっ!
しかも好きな人に。


などという乙女の事情を不二くんは知らないから、ビックリ顔で私のことを見てます…
私も…久しぶりに顔を合わすということ、それと今の行動で何を言ったらいいか…わかりません……



微妙なる…沈黙です。



あー私、制服のまま汗だくですよ。
せめて体育着で汗だくだったら即行制服に着替えに行けるのに。
8×4様の威力をお借りしても…どうにもならないくらいですよ…





なんて
こんなこと、考えてる場合じゃないのに。
どうしてこうも私の考えは脱線するのだろう?




言わなきゃいけないこと、たくさんあるのに。
謝らなきゃいけないこと、たくさんあるのに。


うまく、言葉にできないの。





『ごめんなさい』

『すき』





このたった ふたつ なのに。

口は開くのに、言葉が出てこない。

時間だけが過ぎていく。


言わなきゃ…言わなきゃ……
決めたんだもん。言うって。


「…………ぃ…」


声がうまくでないけど…
でも


「不二くん……こ……いい?」


伝えなきゃ。
何とかして、伝えなきゃ。


「不二くん、これ…ここにはめてもいいの?」


左手を不二くんの方へ


「私がはめていいの?」


言わなきゃいけないことはたくさんあるの…

だけど

まず一番に伝えなければならないことが…ある。



口からの言葉がつまっても、指が語るの。指で語るの。





不二くん、あなたが大好きよ。





って…。


それを、あなたは許してくれますか?
認めてくれますか?





以外に誰がはめるの?」





肯定の疑問形。

笑顔でいじわるを言うんだから…この人は。




「……私…以外は…嫌……」
「どうして?」




間髪をいれずに問うのですね。
私の本心…全部聞きたいの?
私、あなたが思っているような女じゃないよ。
汚くて、ずるくて、あなたを傷つけることしかできない最低な女だよ。
それでも聞きたいの?

じゃあ…言っちゃうから。
こんな女に言い寄ってきたのはそっちなんだから、今更嫌だって言ってももうダメなんだから。





「すきだからだもん! 不二くんを好きだから、不二くんからもらった指輪をココにはめたいんだもん! 私だけの特権にしたいんだもん!

すき…なんだもん……

…だから…………ごめ…ごめんなさい」

「どうして謝るの?」

「いっぱい酷いことしたから」


いっぱいいっぱい酷いこと言った。
ごめんなさい。


…」
「あーっ! あーっ! 不二くん私に近付かないで!!」
「え?」


1歩私に近付いた不二くんを慌てて止める。
ごめん。これだけは譲れない。どんな状況でも…


「ええと…私、汗かいてるし……だからね、せめて1メートルは離れてて! お願いだから!!」


「ぷ…」
「笑わないで下さい! これは重大事項なのですから!!」


不二くんはクスクス笑っています。
なんだか…悔しい……


「わかった。1メートルね」
「…それ以上近付いたら張り倒しますからね」


でも
会話できて嬉しい。


さん」


急にフルネームを呼ばれてビックリする。


「何ですか??」


不二くんは私の目の前に立って


「僕の話を聞いてください」


そう言った。


「……はい」


私が返事をすると不二くんはゆっくり語りだした。


と笹馳の間で何があったのか、大方予想はついたよ。…つらい思いさせて、ごめん。
がつらい時、気付いてあげられなくて、ごめん」


これは、私が謝らなければならないこと。


「自惚れ発言だと思ってくれてもいい。だけど、言う。……別れの言葉、言うのつらかったよね…ごめんね」


これも、私が謝らなければならないこと。


「あの後、僕が笹馳と関係を戻したのはきちんと終わらせる為。僕の為にも、笹馳の為にも。には何も言ってなかったら…。ごめん」


そんなこと、謝らなくてもいいのに。


さん」

「…はい」

「こんな僕ですが、まだ嫌じゃなかったら」

「……?」


不二くんは真剣な顔をして、ジッと私を見て
一度、大きく息を吸うと


こう言った。









「好きです。僕と付き合ってください」










「……」



「また、一緒に始めよう?」













うそみたい


ゆめみたい


だって



だって…




「…いいの? 私でいいの?」

「だからこうして言ってるんだよ。がいいの」





こんなこと、言ってもらえるなんて思ってなかったの。

また、一緒に始めよう。

って一番聞きたかった言葉なの。
一番言いたかった言葉なの。








「……後悔しても…知らないから」
「後悔するつもりはないけど、はそんなことさせる気なの?」
「……させない」

絶対させないよ。そんなこと。



「じゃあ安心。そのかわり、の事は絶対僕が幸せにしてあげるから。好きだよ、
「私も…不二くん好きです。……こんな私でよければ、お付き合い…今日からまた…お願いします…」


私がそう言うと、不二くんは微笑んだ。
いつもの笑顔。でも、かけがえのない笑顔。

















「ねぇ

不二くんがちょっと頬を赤らめて私を見る。
珍しい…

「何でしょうか?」
「…抱きしめていい?」
「ダメ!!!! それだけは譲れません!!」
「そこをなんとか!」
「絶対ダメ!! 汗くさいし!!!!!!!!!
「全然そんなことないのに。むしろいい香りだったのに」
「嗅いだの!!??」
「嗅ぐというか、さっき」
「不二くんのバカーッッ!!!」

















今回はココまでで。
長かったタイトル続きも今回で最後です。
気付いている方がいらっしゃったら万歳なのですが、『心、』から今回の『ただ、それだけ。』までタイトル繋げてます。文にしてます。
深い意味はありません。ただ、なんとなく。(アコは意味ないことばかりしますよ)

今回のお話はもっともっと深く書きたかったのですが(会話内容とか)前の話を読んでいればさん視点も不二さん視点もわかると思われるのでスパッと削除。
同じことばっか書いても面白くないでしょうし…

そんな感じでもうちょっと続くよ元カノ編。
葡萄の背景とももう少しのお付き合いです…。