台風が来た。
台風7号。
暴風雨。
そして
なぜだか
今夜は、ふたりきり…
■桃色タイフーン■
ザーーーーー……
凄い雨の音。
外は真っ暗で、雷はなってない。
雷、嫌いだから唯一の救い。
「……? ……の?」
窓際で携帯片手に不二くんが誰かと話してる。
たぶん手塚くん。
外の雨の音が凄すぎて、不二くんの声もよく聞こえない。
つけっぱなしのテレビからは台風情報。
どこも凄い雨風。
「……あの、さん。非常に言いにくいのですが」
「帰ってこれないって?」
「……はい」
やっぱり……
はぁぁぁーっと溜息をつく。
只今の状況を説明しますと、この広い広い跡部家別荘に今現在居る人間は2人。
私、 と 彼、不二周助 だけ
なのである。
どうしてこんなことになったかと言うと、わかると思いますが…
トラブルメーカーのあの人のことは言わずとも、わかると思いますが……
コイツのせい。
「ねぇねぇ今日台風きてるって!!」
「知ってるよ。もう結構風強くなってきたし」
「うん。さぁ探検へ行こう!!!!」
「……は?」
「探検!! 未知の領域を調べに!! 裏山へ!!」
「……もう一度言うね。台風が」
「来てるからこそ、行くんだろうがボケが!!!!!」
と
強引に皆さんを連れ山へ……
危ないって止めたのに、せめて皆さんを巻き込まないでって止めたのに、探検隊は旅
立ち、そして、遭難……寸前
山を登ったところで暴風雨。
一応ケイタイが繋がり、皆さん無事だということはわかったのでずが、心配して捜索に出
た跡部家に仕えている方々も二次遭難……寸前
なんとか豪雨の中、合流できたものの時すでに遅し…
台風直撃
山の形状から、戻るよりも越えて下山した方が早く非難できるとのことで、皆さんは山を
隔てた隣町へ……
そのまま台風が過ぎるのを待つとの事で……
だ か ら 言 っ た の に !!
どうして変なことばっかするんだろう…
のバカ!!
そんなこんなで、このお屋敷のなかには
わたし
と
不二くん
だけ
なのである。
うーん…困った!
「ちょっと外みてきたけど、昼間のうちに植木とかは片付けてくれてたみたいだから危な
そうなものは無かったよ。戸締りもしてきたし、あとは」
不二くんは冷静に対処してるけど
けどけどけど
私はどうしたらいいものか……
ドッ…ドキドキするっ…
「夕食、どうしようか?」
「……あっ、私お台所み…見てくる…ね」
……
ヤバイ
ヤバイです。
意識しすぎて緊張して……ヤバイです……
あーもーあーもーっっ!!
のバカッッ
……
……
と、まぁこの場にいないに文句を言っても仕方がないですし
お台所には、下ごしらえされた食材もありますし
さてさて、家庭科の成績そこそこ。家事経験そこそこ。
レッツ クッキング!!
あ、今のうちにお風呂のお湯もためておきましょう。
ということで
さぁやってまいりました!
『第一回ひとりでできるもんは見てた世代ですが何か? え? 作ったこと? 無いです! ドキドキ料理チャレンジ』
とりあえず、用意してある食材等から今日の夕食はフレンチだったようですが、食べれる
けどそんなの作ったこと無いよ。という私はモチロン無視。
見たことがあり、今までに触ったことのある、スーパーで売っている食材を集めて
にらめっこ。
にんじん、じゃがいも、たまねぎ、肉はある。
あ
カレーじゃん!! それなら作れると思った矢先
カレーのルーが無いことが判明。
そりゃそうですよね…
こーんなお金持ちのお家に市販のルーなんて置いてないですよね。
香辛料から作りますよね……
そりゃそうですよね……
ということで
「ねぇねぇ不二くん」
不二くんに相談することにします。
不二くん台風情報を見ていました。
うーわー、テレビのなかの木が折れてる。
「どうしたの? …料理してたの?」
「えーいやー」
「ちょっと感動」
「えーいやーそのー」
「あ」
「何?」
不二くんは何を思ったのかバッと立ち上がり嬉しそうに駆け寄ってきました。
ちょっと、ほっぺが赤いです。
「……みたいだね」
と不二くんが小さな声で言いました。
あまりにも小さな声でよく聞きとれません。
「え? なに??」
「新婚さんみたいだね」
「……バカ」
な…なんということを言うのでしょう
この人は!!
「そうだ!」
不二くんは何を思ったのか、玄関の方へ歩いていきます。
「どうしたの? 雨だよ??」
不二くんは私の声を聞かないふりして、外へ。
「ちょっ…あぶないよ」
慌てて追うと
ガチャリと
扉が開き
暗闇のなかから、雨粒といっしょに
ずぶ濡れの、満面の笑みの男が一人……入ってきた。
「ただいま」
嬉しそうに。本当に嬉しそうに。最高に怖いシチュエーションで。
不二くんがビッショビショになって入ってきた。
「こわいよ!!」
「(無視!)ただいま」
「……なに?」
「た だ い ま」
「……おかえり?」
!!!!!!
これは
ま さ か
不二くん…
新婚さんごっこ?
この状況で?
「それはイタイよ。不二くん」
一瞬ピクッと不二くんの笑顔が固まったが、何事も無かったかのように彼は続ける。
「今日も疲れたなぁ。急に雨まで降ってきて」
「いやいや急じゃないから。台風だから」
「今日はお昼が遅かったからまだお腹すいてないんだよね」
たしかに、まだそんなにお腹すいてないです。
「今日は先にお風呂にしようかな。それともにしようかな」
「あ、お風呂なら用意できてますよ」
「…………」
「ほんとに早くお風呂入っちゃってください。風邪ひきますよ?」
「…………」
「不二くん?」
どうしたのでしょう?
不二くんは笑顔のままフリーズ。
「リアルすぎ……」
「はい?」
「、それ反則……」
何なのでしょう??
不思議な人です。
「とにかくっお風呂、入っちゃっててください! その間にお夕飯用意しておきますから。
あっそうそう、何か食べたいものあります?」
「……もう……なんでも……いいです……お風呂先にいただきます…………頭冷やしてき
ます……」
なぜ敬語?
まぁ、いいか
って
よ く な い !
本気で新婚さんごっこしてるみたいだし!!
イタタタター!!
イタイわーそれイタイわー
…………。
ここで、真剣に夕食をつくるのは……
マズイ気がする……
女の子としては、全力を尽くすべき状況だということは理解できる。
しかし、今は、ふたりきり……
しかも、夜
やっべーなぁ、おい
いい雰囲気とか求めてないし……
ここは
女力……ゼロで……
ムードぶち壊しでいかせていただきます……
そうこうしている間に不二くんがお風呂からあがってきました。
「……」
そして絶句。
いぇいっ
作戦成功。
不二くんの目の前には
日の丸ライス。
つまりは、梅干のっけただけの米。
それを見た不二くんは無言のままキッチンへとむかいました。
何やら音がします。
むむっ
いい香りまでしてきました。
数十分後、私の目の前には
キラキラと輝かんばかりの豪華な和食。
「……」
今度は私が絶句。
なにこの手際のよさ…!
「さぁいただこうか」
「……」
……くやしい半面……本気で頑張らなくて良かった……
私の本気が到底かなわない。この出来栄え。
コイツ……料理も完璧か……
不二家遺伝子恐るべし……
「……いただきます」
っ!
しかも美味しいときた。
やべー
うちの母でもかなわない……
家遺伝子……こんなものか……ガックリ……
「あ、後片付けは僕がするから。え? いいのいいの、これくらい。僕に……夫である僕
に任せてよ。え? 心配しなくても大丈夫だよ。割らないから。奥さんはゆっくりテレビ
でもみてて」
「なに一人芝居してるんですか。気持ち悪い」
不二くんは一人で食べ終わった食器を運びながら喋っています。
どうやら一人新婚さんごっこは続いているようです。
「キモいよ……」
「(……)改めて言わないでよ、傷つくなぁ」
「片付けてくれるというなら不二くんにお任せします。私は自分の部屋でもう寝ます。モ
チロンしっかり鍵かけときます。入ってきたらブッ殺す…」
「……口調……キャラ違うから」
「……。ということで、おやすみなさい。また明日」
「うん。おやすみ」
という感じで私は部屋へ戻った。
部屋に備え付けてあるシャワーを浴び、イロイロ考えても皆さんが帰ってくるわけでも無
いし、不二くんとふたりきりだという事を意識していてもしょうがないし。
もう寝よう!!
と、ベッドへ入ったのはいいのですが……
ゴロゴロゴロ
と雷。
ビカッ
と光っては
ドーン
と落ち。
ゴーッ
という凄まじい豪雨。
強風で何かが吹き飛ばされる音。
ぶっちゃけ
こ わ い ……
がいたら迷うことなく一緒のベッドで眠るのにっ
うわわっ
また雷が落ちた。
私に残された道は、ふたつ。
なんとかどーにかこーにか寝てしまうか
不二くんに助けを求めるか……
どっちも……こわい……
でも
ふたりきりになった時から、心のどこかで期待もしていた。
『ふたりきり』
なんだなって。
この合宿が始まったとき、不二くんとあまりに一緒にいれなくて不満だった。
それが今は
ふたりきり
こんな事、滅多にない。
というか今日が終わったら何年後になることか……
ドキドキする。
心臓が凄くはやいのは、きっと雷のせいじゃない
たぶん顔は真っ赤だと思う。
ほんとはこんな顔みられたくないし
パジャマ代わりのTシャツ・短パンだし。
もっと可愛い格好していればよかったなって思うけど
これが私だ。仕方ない。
ドキドキする胸をおさえて、私はそっと部屋を出た。
最初に不二くんの部屋へ行ってみた。
ノックをしたけど返事は無い。
雷の音で聞こえない? と思ってドアを蹴ったけど、やっぱり返事は無かった。
1階へおりると、よく皆が集まっている立派なテレビのある大きな部屋から明りが漏れて
いて、ドアの隙間から覗くとソファーに掛けている不二くんの後姿が見えた。
入ろうか、どうしようか??
と迷っていると
「どうしたの?」
ゆっくりドアが開き不二くんが私を見下ろしていた。
「えーっとですね……(どうして私がいるって、わかったんだろう)」
「(……モンモンとした怪しい空気がダダ漏れていたら、いやでも気付く)……何事?」
にっこりと微笑む不二くんの顔を見ると、すっごく安心した。
あぁやっぱりこの人は凄いな
やっぱり だいすきだなぁ
「あの……ですね」
「どうしたの?」
「……」
「?」
目の前にいる不二くんの顔をジッと見てると。
なんだか凄く愛しくて……
トコトコと大きな部屋へ入るとテレビを消した。
不二くんが不思議そうに私を見ている。
そんな不二くんの手をギュッと握ると、そのまま引っ張り階段をあがった。
ズンズンと歩く。
もう私に迷いは無い。
そしてついに私の部屋の前まで来た。
そこで不二くんの手を離した。
不二くんはまだ不思議そうに私を見ている。
言ったら、どんな顔されるかな?
引かれるかな?
でも
私の中の女が不二くんを欲しているから
「不二くん……今夜は……その…………せんか?」
「え? なに?」
「……今夜は一緒にいませんか?」
精一杯の勇気。
この一言を言っただけで心臓が破裂しそう。
「……、えーっと……」
「嫌なら帰れ!」
「嫌なわけ無いよ!! でも」
「でもって何だ!!??」
「……僕は、自信ないよ」
不二くんは頭を抱えて座り込む。
「自信ってなによ」
「は僕を信じすぎてる…気がする。もし、何かあっても……泣いても叫んでも今日は誰もいないってわかってる? 誰も助けてくれないよ?」
「わ…わかってる」
「僕が男ってことも?」
不二くんがジッと私を見つめた。
その瞳が私を試しているかのようだった。
ちょっとゾクッとした。
でも
私の唇から溢れた言葉は
「私だって、女だよ」
不二くんを挑発した。
ガタッと音がした。
それは私の背中がドアにあたった音。
びっくりした。
急なキスだった。
押さえつけられて、深い深いキス。
息継ぎも間々ならない。
「……っじくん」
苦しいという抗議の声を発することもできない。
恥ずかしさと、息苦しさで体の力が抜ける。
それに気付いたのか、そうではないのか
ひょいっと不二くんが私の体を抱き上げた。
その間もキスはしたままで、入ってきてる舌の感触で背中があわだつ。
頭が真っ白になって、気付いたら私の両手は不二くんの首へまわっていた。