呼んでもないのに、傍にいて
頼んでないのに、優しくしてくれて
必要としてないのに、愛してくれる。
そんな存在。
■一歩手前。■
「、好きだよ」
「あーはいはい」(超棒読み)
こんな会話は日常茶飯事。
毎日毎日飽きもしないで好きだと言ってくれる。
正直、悪い気はしない。
随分前と比べたら印象は良くなったと思う。
「好き」じゃないけど「嫌い」じゃない。
「普通」とも少し違う。
「微妙」な気持ち。
そんな不二くんに私は、隠し事をしています。
口が裂けても言えない、秘密。
「あのね不二くん。私、用事があるの」
「うん」
「だからね、少し離れて欲しいんだけど」
さっきからずっと腰の辺りに抱きついて離れない彼に一言。
最近ずっとこうなのです。
「大っ嫌い」発言がそうとう辛かったのか、この頃甘えます。
最初のうちは殴りましたし、蹴りました。
離そうと努力しました。
けど…殴っても殴っても、蹴っても蹴り飛ばしても
不二くんはスッポンのように私にしがみつきます。
もう
…諦めました。(溜息)
「…(しゅーん)」
「落ちこまないで! もう……部活の応援にはちょっと行ってあげるから」
「ほんと? 絶対だよ?」
「はいはい…(仔犬みたい)」
これが魔王なのかと疑いたくなるようなこの可愛さ。
最近の不二くんは卑怯です。
母性本能をくすぐります。
「ねぇ、今からドコ行くの?」
素でこんなことを可愛く聞いてきます。
もうこれは誰がどう見ても『魔王』ではありません『天使ちゃん』です。
「のところですよ」
「?」
「ちゃん。私の親友。不二くん知らない?」
「初めて名前聞いた。今度、紹介してね。僕もう部活だから(にっこり)」
「うん」
ああっ可愛いっ!
少し前の私だったら絶対抱かない感情。
どうして彼はこうも可愛くなってしまったのかしら?
と、思いつつ私はの待つ教室へと急ぎました。
ガラッ
ドアを開けて一歩入ると一言。
「わっかんないのよ」
が言いました。
「え?」
「だーかーらー、犯人」
「犯人ってそんな言い方…(汗)」
「聞き込みしたんだけど、ぜーんぜん」
ここでちょっと状況整理を。
犯人というのは、私に嫌がらせをする人のこと。
三日前から靴が無くなったり、不幸の手紙(誹謗中傷の手紙)をもらったり、上靴にガビョウが入ってたり…
嫌がらせをされるようになりました。
ただのイジメかなぁとか思ってたら、昨日決定的なメモが砂だらけの靴の上に置いてありました。
『不二くんと別れて』
ああ、そうかい。こうきたかい! って感じ。
この前の一件で不二くんが魔王っぷりを披露したので呼び出し等を考える子がいなくなったと思ったら、陰湿な手を使ってくるようになりました。
魔王っぷりを発揮してもファンの数は減らなかったようで……
「ほんっとムカツクよね!」
そのことを知ったが激怒してくれて犯人を突き止めて止めさせようってはりきってくれてるんだけど。
「犯人見つけたらさぁ、不二くんに言って懲らしめてもらおうね♪」
なんだかは楽しんでいるようで、ちょっとフクザツ。
「もうーっっ秘密だって! 不二くんには」
「わかってる。見つけるまでは秘密にしとく」
「見つけても秘密!」
そうなのです。
これは秘密。
絶対言えない秘密。
だって、ねぇ
不二くんに知られたら
自惚れかもしれないけど
また
魔王(=怒る)になっちゃうかもしれないでしょう?
そしたら、ほら
惨劇だから…………
それとね
今の不二くん可愛いから。
できれば、このままでいてほしいなぁなんて思ってたりします。
「でもさでもさーっ悔しいじゃん。こんな酷いことしといて不二くんには好かれたいなんて。ムカツクよ!」
それは、そうです。
ムカッとはします。
けど…気持ちはわからなくはないから。
「ほんとにお願いだから不二くんには秘密だよ。絶対」
「それは無理だろうな」
女の子2人の会話に突然加わった男の声。
その声の持ち主は
「乾くん?!」
「驚くことはないだろう。ここは俺の教室でもある」
ああ、そっかと乾くんって同じクラスだったと納得していると
「ムリってどーゆーことよ?」
先程の言葉にが訊ねました。
「そっそうです。ムリって…」
その問いにサラリと
「そろそろ不二の耳に入ってるだろうね」
乾くんは言いました。
「なっななっっ」
「『なんで?』って?」
「そそっ…そうです!」
「普通に噂にはなるよ。ゲタ箱なんて人の往来激しいし、靴見て落胆してるの姿を見れば何が起こったかくらい容易に想像できる。男の噂話は女の子に比べるとまわるの遅いから、今日辺りに大石から不二の耳に入るだろう」
「っっ!!」〔顔面蒼白〕
私はそれはもう日頃からは想像できないほどの足の速さで教室を飛び出しました。
頭の中は
止めなきゃ止めなきゃ!
ただ、それだけ。
息を切らしてテニスコートに辿りついたらそこには
「v」
見事な笑顔の不二くんが立っていました。
これは…もう…バレた?
「今日ね、部活が少し長引きそうなんだ。だからね、先に帰っててくれる? 送れなくてごめんね」
こ…これは……天使モード継続中?
バレてない???
「…はい」
「それとね、明日の昼休みにねちょっと用があるから教室で待っててくれる?」
「はい」
「それだけなんだ。また、明日ね」
そう言って笑顔でコートへ戻りました。
どうやら、バレてないようで…。
他の部員の方々も何も言ってきませんし。
どうやらバレてない?(ニヤリ)
よかったです。(ホッ)
そうして私はのところに戻り、一緒に帰りました。
――翌日
チャイムが鳴ってお昼休みになりました。
そういえば不二くんが来ると言っていましたね。
お昼は一緒にとるのでしょうか?
などど考えていると
「」
不二くんがやって来ました。
「? 用とは何です?」
訊ねる私の手を引き、椅子から立たせます。
「?」
ぎゅうっ
「…ななななっ!!!」
そして思いっきり抱きつかれました。
最近の甘えるような抱きつきではなく、何と言いますか体をすっぽり抱きしめられてます。
「どうして僕に隠し事するかなぁ?」
耳元で声。
いつもより少し低くて、ドキッとしてしまいます。
「…かか隠し事なななんて」
「してるでしょう? 昨日大石に聞いてビックリ」
「!!」
乾くん…アナタのデータは完璧だったようです(滝汗)
「僕のに嫌がらせをするなんていい度胸だよねぇ」
「ああの……(コワッ! 不二くんがこわいです)」
「でも大丈夫。が思ってるようなことしないよ、穏便に解決しようね」
「(穏便?! 不二くんが?? 惨事でなくて)」
ちゅっ
それはクラス全員の視線が注がれる中の一瞬の出来事。
ちゅっ?
「ほんと僕はが1番好き」
ちゅ??
「誰よりも大切」
ちゅ???
「わかった?」〔開眼してクラス全員を見渡す〕
ちゅ????
今、不二くんの唇が私の唇の真横にあたりました。
今のって今のって…
周りから見たらキス?????
ゴッッ!!
反射的に不二くんの頭に頭突きをかまして
「っっっ///」
顔を真っ赤にして、捨て台詞も言わないで逃走。
「―っっ」
「何? どうかした??」
逃走先はの教室。
そこで私は一部始終、全てを言いました。
「あっははははは!(涙目)」
すると大爆笑されました。
「っ(怒)」
「いやぁさすが不二くんだわ」
涙を流して笑いながらは続ける。
「これでもう大丈夫だよ」
「何が?」
「嫌がらせ、無くなると思うよ?」
「どうして?」
「今のことすぐ学校中に広まるでしょう?」
「う…うん。たぶん」
「不二くんの宣言も広まるよ」
「宣言?」
「『が好き』『誰より大切』『わかった』ってことは手ぇだしたらヤルぞvってことでしょう」
「え?」
「そうだよねぇ、乾?」
「そうだな、の言う通りだろう。不二なりの警告ってところだな。この前の一件(魔王のこと)もあるだろうし効果は絶大だ」
「お疲れ、vv」
嫌がらせがなくなってくれるのは、嬉しいですけど
これでまた
「私と不二くんの仲が…誤解される?」
「「もちろん」」(キッパリ)
この日から、と乾くんの言う通り、嫌がらせはピタリと無くなりました。
それと一緒に天使モードの不二くんもいなくなりました。
通常に戻りました(涙)
ああっもう……
。なんだかもう、なにかとツライです。
***反省***
タイトル通り『一歩手前』くらいの関係になったかと思われます。
あと一歩がなかなか踏み出せないのですけどね。
次くらいから甘くなるといいなぁ。
《念の為》
ちゅーはしてません。
唇の横です。
周りから見ると顔が影になってチューしてるように見えるって
感じです。