グロスがついてた。
それをグイッて手で拭った。
そんな彼と目が合った。
放課後、ぼーっとしつつ廊下を歩いていた。
別に用事は無くて、帰るつもりも無くて、ただ、なんとなく歩いてた。
ぼんやり歩いていたら、左端に人影。
ああ、誰かいる。
その程度だった。
そう
その程度だったのに
目の端に飛び込んできた。
綺麗な顔の男の子。
キラキラと光るグロスのついた唇。
それを無造作に拭う手。
気だるそうな目。
「……」
ただ通り過ぎればよかったのに
一瞬時間が止まって、私の足も止まって
気まずく流れる沈黙。
「……」
何か言うのもおかしくて。
だって言うことないから。
見たことはある。同じ学校の人だっていうのはわかる。
でもそれだけで。
だから何も言うことはなくて。
「……」
だったら歩いて行っちゃえばいいんだけど、なぜだか足が動かなくて。
こんな私は自他共に認める不審人物なわけでして。
だから彼からの冷たい視線も理解できるわけでして。
「……珍しい?」
そんな私に彼の声。
珍しい…
ええ、そう言われれば珍しいですよ。
唇にグロス。
ということは
たった今アナタはダレかとキスしたんでしょう?
キスした直後の人なんて滅多に見れませんし。
珍しいは珍しいですけど
「不意打ち」
不意打ちと言われましても。
私には何が何だかサッパリですが。
あぁもしかして「ダレかに突然唇を奪われた」ということですか?
だからそんな顔?
「今、暇?」
は?
暇?
まぁ暇っちゃ暇ですよ。えぇ。
「キス」
は?
何事ですか?
「消毒」
綺麗な彼は綺麗に笑った。
そしてそのまま私にキスをした。
3秒後にその綺麗な顔を思い切り引っ叩いた。
彼は笑った。
一瞬マゾかと思った。たぶん違うけど。
そんな彼とこの日、私は始まった。
相手はダレだ??
って感じですねぇ。まぁお好きなお相手で…(笑)