さぁ、どう誤魔化す?

このまま勢いで告るなんて出来ない。

…どうしよう?



■わたしの好きな人・5■



意外と冷静な自分に驚く。

慌てて取り乱すなんてことはしない。

内心「うわっやっべぇ!!」なんですけどね!!

「どうしたの?」

「…?」

「マヌケ面。バカがもっとバカに見えるわよ?」

「いま」

「部活いーのー? サボリ?」

「いま、何て言った?」

「サボリ?」

「その前」

「マヌケ面」

「もっと前」

「どうしたの?」

「更に前」


いつもならココまで深く突っ込まないのにっっ


?」

「何も言ってないけど」

「俺の制服握り締めて…」

「だから、何も言ってないって!」

「…………」

「えーじ?」

英二は顔を真っ赤にして、フルフル震えながら

「…

私の名前を一言呟いて

クルッと背を向けて走って行った。

ゴッ

という音を立てて何かが落ちて、その音に一瞬英二が振り向いたけど

何も言わず、落ちた物も拾わず走って行った。





「……ビミョー」


英二の落し物を拾うためにしゃがみこむ。
今口から出た言葉は

『気持ちがバレたかバレてないかの判断』

『英二の落し物』
についての感想。

はっきり「好き」と言ってしまった。
誰をとは言ってないけど英二の制服を握ったままのセリフ。
イコール相手は菊丸英二。
いつもの鈍感英二なら私の気持ちなんて全然気付かないのだろうけど
さっきの反応は……


気付いちゃった?


気付いたとしたら…シラをきり通すわよ!
私は!!


で、後者のビミョーはコレ。
おしるこの缶。
この季節に(もうすぐ夏)コレ…
いまどきドコで売ってるのか疑問。

たぶん…コレは私へのプレゼント。

手当てのお礼ってとこだろう。

部活サボッて何やってんだか…


「さぁーて、どうしよっかな」


おしるこの缶を手に取ると部室から出て教室に戻った。




































素直になれれば、楽だと思う。

でも『素直』になれば『失う』ものが生まれてしまう。

私は、英二とのこの関係を壊したくない。

『好き』と言って、英二を困らせたくない。

英二はまだ失恋したばかり。


そんな時に余計なものを背負い込ませたくないの。







ずずっとおしるこをすするともうぬるくなっていて

「甘…」

この季節に飲むなら丁度いいと思った。







「浮かない顔をしているな」


急に背後から聞こえた声にブッとおしるこをふきだしてしまう。

「驚かせたか? すまない」

声で誰であるかは判断できる。
この声は

「手塚…君……」

「さっきは、すまなかっな」

「え? あー…」

手塚君から視線をずらす。

恥ずかしさと罪悪感で顔を直視することができない。

「軽率だった。あんな場所で…」

「……ううん。私こそ、ごめんなさい。あ…部活、いいの?」

「ああ、大丈夫だ」

「そっ…か」

たぶん――手塚君にはバレている。
私の気持ち。

だって普通告白された直後に他の男を追いかけるだなんてありえない。
追いかけるってことは誤解を解きたいという証だから。

『告白されたけど何でもないのよ』そう伝えるためだけなのだから。

「ごめんね」

「それは――どれに対してだ?」

どれ?

告白に対して? さっき英二を追いかけたことに対して?

「……全部……かな」

そう――全部。

「手塚君の気持ちには応えられない」

「そうだと…思っていた」

「…やっぱり?」

「ああ。の行動は分かり易い」

「……ごめん…ね」

「謝ることはない。ただ」

「?」

「この事が原因でと気まずくなるのは嫌だ」


…………私と、同じ

私も――嫌。


「友人として変わらぬ付き合いをしてほしい」


「……努力は……する」


実際問題変わらないなんてことはないの。
『告白』ってことがあったのは事実なのだから。
無かった事にして『前と変わらない友達』っていうのは無理だと思う。

振った方も振られた方もドコかで心に引っかかる。









このなるのが嫌だから

だから

私は英二に何も言えないの。










「そうか。………………菊丸には追いつけたのか?」

「……一応」

「誤解は解けたか?」

この問に答えることは残酷だと思う。
でも

「うん」

手塚君が自ら訊いてきたのだから、何か考えがあってのことだろう。

「よかったな」

「うん」

本当はそうでもないけど…新たな問題抱えちゃってるけど。



「そろそろ戻る」

「うん。部活、頑張って」

「ああ、も」

「……ん」


静かに手塚君は教室から出て行った。



一人教室に残った私は隣の席をジッ見る。




「明日から、どうしよう」











手の中のおしるこは、もう冷えていた。


その冷たさが、なんだか痛かった。








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***反省と補足***
手塚さんの「誤解解けたか?」発言はアレです。
自分の中ではっきりと「菊丸のことが好きなのか?」とは聞きたくないけど気持ちを整理するために言ったワケですよ。はい。

で、おしるこちゃんはさんの心の中での菊丸さんを表したりしてるのです。
わっかりにくいですね(汗)
自分の気持ちを気付かれてどんどん菊丸さんが『友達』から離れていくのが嫌なのですよ。
『友達』から『恋人』になれるわけないと思っているので『友達』でなくなったら『他人』になるわけなのです。
冷えてしまったおしるこちゃんは=離れるってことですね。
このままでは『他人』になってしまう。だから手の中でまだあたためていたい。そんな感じ。
自分が頑張れば『友達』を続けられると思っているのですよね。
わかりにくーっっ(>Д<;)
書いてる本人ワケがかわらなくなってきました。
もう…読みとばしちゃってください。