「すき」って言ってもらった

やっと気持ちが通じたら

なぜだか

彼女に

飽きた。






確かに、好意は持っていた。


「好きだ」


とも言った。


でも、彼女に、錦に「好き」って言ってもらった途端


ふっ


と、気持ちが冷えた。



■差■



笹馳 錦という女はパーフェクトだった。
容姿端麗、眉目秀麗。この言葉は錦の為にあるような言葉だと思った。
申し分の無い女。
しかも話せば楽しい。

だから


『好き』

だと思った。










そう――思ったんだ。













でも、それは頭で思ったことであって心で感じたものではなかった。

だからだろうか

彼女が…錦が僕に『好き』だと言った瞬間。

彼女が『ただの女の子』に見えて

途端

『特別』だと思っていた存在が『普通』になって

そして

飽きた。


飽きた…というよりは


興味がなくなった。


そう――色付いて見えた女の子が一瞬で背景に溶け込んだ。


特別視しなくなった。




でも、自分から『好き』だ言って、『好き』だと言ってもらったのだから付き合うことにした。


今から考えれば残酷なことをしたと思う。


好きでもないのに偽っていたのだから。


その偽りの関係は長くは続かなかった。


「周助、私のこと好き?」


二年経った今でも鮮明に思い出すことができる。


会う度に僕の心が離れていく。そう感じ取った錦が不安そうに訊く声。


その言葉を言えばいっそう僕の心が離れていくと気付いていながらも、言わずにはいられなかったその言葉。



「周助、私のこと好き?」



その問いに



「どうでもいい」



そう答えてしまったのはいつのことだっただろうか?


それが『別れの序章』



「別れよう」



そう、言ったのはそれから数日も経たないうちだった。





その後、錦は転校。
錦は別れを拒んでいたけれど、それで自然消滅できると思っていた。


けれど


違ったみたい。


錦は戻って来た。


そしてあの声で呼んだ。


「周助」、と。


あの頃と変わらぬ声。


うっすら笑みをうかべながら錦は僕の名を呼んだ。


そして


「ただいま」


声にはしなかったが、錦はそう唇を動かした。


続いて


「今の子が彼女?」


とも。





の背中がまだ見える距離で

余裕の笑みをたずさえて




そう、唇を動かした。











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