「あいたい」

 心からの願い。

「ふれたい」

 心からの願い。

「声が聴きたい」

 この願いは

「名前を呼んで」

 私には許されないこと。






■好きだという −前編−■





















〔side

始まりは私の一言から。

「しゅーすけと、笹馳さん? ちょっと前にヨリ戻したみたいよ」

ポッキー食べつつ、雑誌を読みつつ言ってみた。
私の言葉に対するの反応は

「ふ…ふーん」

だけ。
しかも声がふるえてて動揺しちゃってるのがバレバレ。
まったくこの娘は何を考えているのやら……

「あのさぁ、突然だけど私今日とっても体調悪いんだなーコレが」
「え? 何を拾って食べたの??」

某猫男じゃないんだから、誰が拾い食いするかっつーの!!
ホントは体調なんか全然悪くないんだけど、今から富士山登るか! っーくらい元気なん
だけど
ちょっとワタクシには考えがありますので(クスッ)

「だから6限の授業ちょっとムリ…かも……」
「……」

チッ!
いつもはコロッと騙されるのに今日にかぎって疑いの眼差しで私のこと見てやがるわっ!

「……体調悪いのに……ポッキー?」

ぐはっ!
ちょっと今日のこの子ったらやけに鋭いじゃない?!

「……甘いもの食べて脳に栄養あげてるのよ」(言い訳)

これ以上深くつっこまれないうちにとっとと雑誌をしまう。
ポッキーも食べてしまう。

「ってことで6限の体育は保健室で休むことにするわ…」
「……ふーん。今日…炎天下の学年合同マラソンだからサボリかと思ったのに。お大事にね」

よしよし。はなんとかなったわね。
ごめんね、。嘘ついて。
でもね、今日がいいと思ったのよ。
と不二が別れてそろそろ4週間。
つまり1ヵ月。
30日ってことで、720時間ってことで、43200分ってことなのよ。

その長い間、は笹馳の陰謀によって苦しんだってコト。
達は付き合いだしてまだ少しなのに、この貴重な時間を1ヵ月も潰された。
そろそろ何とかしないといけない。


「さてさてそろそろ教室に戻りますかな、じゃぁまた放課後にでも☆」
「まだ保健室にいるようだったら荷物持って行くね」
「うん。じゃあね」


これで6限目に私がいなくてもに不審がられることはない。





5限目の英語を睡眠学習し、6限目までの10分休みが始まる。
6限は学年合同体育なので皆が一斉に着替えだす。
11組の女子は10組で着替え、この11組の教室には10組の男子と11組の男子が集
まり着替えているわけだが、その中に居てはいけない女の子が1人。
その女の子とはモチロンだ。

「…………いくらお前でも男子が着替えている中堂々と居座るのはどうかと思うぞ」
「いーじやん減るもんじゃないし。むしろお前たちのが堂々と脱げ!」

着替えを行う乾の前の席に座り、はボソッと言う。

「今日…するから」

「……そうか」

に、嫌われそう」

「……かもしれないな」

「でも、このままじゃ嫌だから」

「そうだな」

に嫌われたら、私、泣いちゃうかも」

「その時は俺の所に来い」

「うわっ気持ち悪いっ!」

「……

「ってことで次の時間私サボるから、後は頼んだ!」

それだけ言うとは立ち上がり、静かに教室から出て行った。












〔side

「っはぁ……はぁ……」

マラソンって普通、冬にやるものだと思います。
なのになのに、どうしてこの学校ったら夏にもやるのでしょうか??
しかも学年で。

地獄っすよ。
炎天下のマラソン。
夏だし、暑いし、汗かくし。
やっとやっと走り終わりました。
私ってば下から数えた方が早い順位でしたけどね。持久力はないのですよ。

とっとと教室に戻って着替えて、の様子でも見に行くとしますか。

そんなことを思いながら校舎へ向かっていると
横をふわっといい香りを漂わせて女の子が駆けていった。

いまのは

「にし…きちゃ」

振り向くと


タオルを持って不二くんへ駆け寄る錦ちゃんの姿。


ああ、そっかそっか。
錦ちゃん体……だから体育お休みしてたの…かな?
ああ、そうだった。
錦ちゃんと不二くん…ヨリ戻したんだった…ね。



ああ、そっか。
そうだった。



これは私が望んだこと。
望んだことなのに。
実際自分の目で見ると凄く…凄く……心が痛い。




何だか涙が出そうだったから、急いで校舎に駆け込んだ。
あの2人…一緒に見るのは
まだ
つらいよ。










教室に戻って素早く着替える。
今日は何だか誰にも会いたくない気分。
だから
の様子を見たらすぐに帰ろう。

HRを終えるとまず11組へ。
そこにの姿がなかったから荷物を持って保健室へ。

「あれ?」

保健室にもの姿はなし。

「どこに行ったのよ…もう」

荷物は私が持っている。
だから早退したとは考えられない。

携帯を取り出し、先生に見つからないようこっそり電話をかける。
呼出音が続くものの、出る気配はない。

「誰に電話してるの?」

何度目かのコールが鳴った時、ふらっと目の前にが現れた。

はぁ…と溜息をつくと

「誰ってにきまってるでしょ」

持っていた荷物を手渡す。

「もう大丈夫なの? 私今日何もないからもう帰るけど、はどうする? 一緒に帰
る?」

「ねぇ、

「なぁに?」

「本当に帰っていいの?」

は廊下の窓を開けながらそんなことを訊いてくる。

「え? だって今日委員会の仕事もないし…」

「そういう意味じゃなくて」

「なに?」

「何か、忘れてない?」

「なに? どうしたの??」

「何か、無くしてない?」
「ちょっと? の方がどうしたの?」

「例えば、そう……ポケットの中とか」


咄嗟にポケットを触る。



ない。



中に入ってる筈のあの感触が
指輪のあの感触がない。


ポケットの中に手を入れる。
ない。
ポケットに穴が開いてないか確かめる。
開いていない。


なんで? どうして、ないの?
どうして? どうして? どうして?


「コレ、なぁんだ」

の声に顔をあげると

「どうしてっ?! どうしてが持ってるの!!」

の右手の中に、銀の指輪。

「それはこっちのセリフ。なんでまだがコレ持ってるの? 不二とは別れたんでしょ? 不二にはもう飽きたんでしょう? 嫌いになったんでしょう? じゃあ、いらないじゃない。なんでそんなに必死なの?」

「……それは」

「まさか、まだ不二のこと好きなの?」

「違いますっ!」

「じゃあ、いらないよね」


一瞬の出来事だった。
あっ! と思うと
は開けていた窓から指輪を思い切り外に投げた。


「……」



行かなきゃ。探さなきゃ。

たいへん。はやくしなきゃ……



「ねぇ。今さぁ「違う」って言ったよね? なのに、なんで泣くの?」

ビックリしすぎたのだろうか?
涙がポロッと零れた。



はやく、はやく探さなきゃ。
暗くなったら探しにくくなっちゃう。
はやくはやく見つけなきゃ。



「ちょっと待って!」

探しに行こうとする体をによって止められる。

「はなして」

「どこに行くの?」
「探しに行くの」
「どうして?」
「どうしても」
「不二のこと飽きたって言ったじゃない! 好きじゃないって言ったじゃない!」
「……」
「好きじゃないって言ったよね」
「……きよ」
「なに? もっと大きな声で言って! きこえな」
「すきよ!」



言ってしまった。
絶対言ってはいけなかったのに



「どうして言わせるの? 不二くんのこと、諦めようと……してるのに。どうして言わせるのよ?! 諦めなきゃいけないの! 私は…私は――…」

「どうして好きなのに諦めるのよ?」

「それ…は」

「なに?」

「言えない」



今、理由を言ったら錦ちゃんのこと、悪く言ってしまう。
それはダメ。



「もう、ほっといて!」



まだだめなの。
あの指輪が私を支えてくれるものだから。



まだ ひとり じゃだダメなの。




なんか大嫌いっ!!」







NEXT