チリッて……した。
■ヤケド■
「不二君が……好きです」
それは放課後、開いていた廊下の窓から聞こえた一言。
「さんと付き合ってるって知ってます。けど、二人を見ててもさん不二君に冷たいし、私さんより不二君を好きだって自信あります」
私は去った方がいいと思いながらも廊下から動けなかった。
私が不二君と付き合ってるって噂は嘘。
私が不二君に冷たい、というか避けているのは本当。
この子が私より不二君を好きなのは本当。
「ごめんね、僕のこと好きだから。きみの気持ちには応えられない。を裏切ったり
傷つける真似は出来ないんだ」
裏切るも…傷つけるも……
『つきあってる』ワケじゃないから、ないんだよ。不二君。
女の子の泣く声が聞こえる。
女の子をなだめる様子がうかがえた。
――これが1週間前
今日、変な夢をみました。
ツバメとヒグマとシロクジラ……………
「あのーっ」
私は今、3年生の各教室を回っています。
この質問をする為に
「不二君の『妖精』って何ですか?」
テニス部員・レギュラー、全ての人が声をそろえて言います。
「きかないでくれ」
あの手塚君にまで言われてしまいました。
妖精とは……なんでしょうか??
「僕の妖精のコト知りたいの?」
不意に背後から声がしました。
明らかに本人さんの登場デス。
「知りたいです。気になります」
慣れとは怖いものデス。
あの不二君と(ほぼ)対等に話をすることができるようになりました。
「いいよ。にだったら僕の全てを教えてあげても」
「全てはいりません。一部だけ、妖精についてだけ教えてください」
そもそも私が妖精について知りたいと思うようになったのは……
あの夢。
以前から私の好きだった人が病に倒れたり、大石君が白目むいて倒れたり……
それが妖精の仕業だと皆さん言いますけれど……
妖精ってなにさ?? と常々思っていました。
ただの黒魔術ですか?
にしては『妖精』なんて可愛らしい言い方をしていますし……
そして極めつけが今朝の夢。
ツバメとヒグマとシロクジラ…………
なんだか誰かを連想させる動物達が私の夢に出てきて
ツバメ『そろそろ落ちたら?』
ヒグマ『そうだよ★』
(クジラ遠くでザブザブしてる)
と言いました。
なんでしょう??
これが……妖精とやらですか??
だとしたら一言文句を言ってやりたいのです。
「妖精ってツバメとヒグマとシロクジラですか?」
「さすがvv姿まで知ってるなんてね(白鯨と言ってくれないかな)」
もしかしてビンゴですか?
「レギュラーが気配を察知できるようになって、他は妖精って名前しかしらないみたいなんだけどね」
そんな特別……ヤ…です。
「……夢にでてきたんです。ツバメとヒグマとシロクジラ」
「へぇ……」
と不二君が驚いたように声を出しました。
「夢にまで入ってこないでください(怒)」
不二君はニッコリと
「ソレは僕の命令じゃないよ」
と言いました。
「はい? 不二君の仕業じゃなかったら」
「独断……かな?」
おおっ恐るべし、不二の妖精!!
っーか……
そんな可愛い呼び方でいいのですか??
もっとこう他に良い名前あるんじゃないですか??
えーっとなんでしたっけ??
あぁっ!!!!
「『使い魔』の躾くらいちゃんとしてくださいっっ」
私は一言言うとその場を去ろうと踵を返しました。
けど、振り返って
「いつまで嘘の関係を演じるのですか?」
それで、傷つく人がいる。
「嘘って?」
「私と不二君が付き合ってるって噂」
「僕は本当にするつもりだけど?」
「でも今は嘘でしょう? これから先、本当になるつもり無いって何度言えばわかってくれます?」
そう――これが3日前のコト。
なんつーか
…………??
ここ数日……幸せデス。
全く全然サッパリ現れません。
いつも休み時間になっては現れ、ニコニコしていた不二君が現れません。
幸せデスvv
こんな静かな日々を送ることが出来るだなんてvv
『普通』とは素晴らしいモノだったのですね。
でも
いつも居た人が突然いなくなると
不思議と
淋しいものなんですね……
なんて廊下の窓際で背伸びなんかをしていると
「ほら……あの人」
「ダメだよ。指さしちゃ」
視線を感じます。
私……見られてる?
「くすくすっ」
しかも……笑われてる?
「不二君に捨てられたんでしょ。あの人」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヲイッッ・・・・・
今、なんと言いました??
まぎれもなく私に向かって言われた言葉。
私が、不二周助に捨てられた?
なんですと????
グリッと首を回し嘲笑した女の子達を見る。
慌ててその子達は私から目をそらして何事もなかったかのようにしている。
詰め寄るのもメンドウだし……
私はほっとくことにしました。
さてっお昼休みです。
昼食もすみましたしお仕事です。
図書委員です(悦vv)
私が図書室へ行こうと席を立った時
「さん。ちょっといい?」
と知らない女の人達(同学年なんでしょうが大人っぽい方々です)に声をかけられました。
これは久しぶりに『呼び出し』ってヤツかもしれません。
「なにか?」
「ちょっと、お話したいことがあるの。いい?」
よくないです。委員の仕事があるのです!
しかし多勢に無勢。断っても無理矢理連れていかれるのでしょう。
「……わかりました。でも、少ししか時間とれませんよ?」
私はついて行くことにしました。
「周助とは別れたのよね?」
つれて来られたのは呼び出し場所としては最もポピュラーな体育館裏でも体育倉庫でもなく、第二理科準備室。
これは意外でした。でもココはめったに人が来ませんし、呼び出しにはいい場所です。
そこで開口一番に言われたのが
「どうなの? 別れたんでしょ?」
おねーさんたち……(同学年だけど)
「別れるもなにも……付き合ってもないんですけど」(溜息)
これは本当。
不二君は私のことをスキだと言っていたけど
私はその言葉を信じていないのが本音。
魔王様の戯れだと思っている。
「そんな嘘で騙されると思ってるの? 付き合ってた、そして周助に捨てられたんでしょ?!」
捨てられる…ねぇ。
私は壁に寄りかかりながら、もう一度言う。
「付き合ってなかったから別れるなんてしてないし、むしろ捨てられてなんかないデス。
それにあなた達は不二君が女を捨てるような真似すると思いますか?」
不二君は絶対『捨てる』とかそんなことはしない。
もし私達が本当に付き合っていて、別れることになっても
不二君はキチンと別れてくれる。
「勘違いみたいなので、私もう行っていいですか?」
すると見る見るうちに彼女達の顔色が変わっていく。
あーやっちゃったカモ。
今の言い方がどうやら彼女達の癇に触ったらしい。
あーもーっこの頃不二君相手に強気発言連発してたから言葉使いが悪くなってるなぁ。
などと考えてると
「アンタほんとは不二君に未練タラタラで、あわよくばヨリを戻そうなんて思ってないでしょうね? ブッサイクなくせに調子に乗るんじゃないわよ!!」
ぶっ……ぶさいく…………(怒)
いくら穏便なさんでも……怒りますよ(怒)
「未練なんてありませんっ。あなた達も私にコンナコトしてる暇があったら不二君の所行ったらどうですか? 好きなら告白でも何でもすればいいじゃないですか?! 上辺だけの不二君に酔ってるだけ(だって魔王の片鱗すら見ていないんでしょう)のあなた達なんかに不二君が応えてくれるとは思えませんけど」
パァンッッ
左頬に熱が走った。
あ。
私ぶたれたんだ。
「アンタが周助の何を知ってるっていうのよ?! 口だけのクセに」
なんでだろ
なんか、すっごい今の
ムカついた。
「知ってますよ。あなた達なんかより、ずっと」
最初は上辺だけだった。
次に悪魔だと思った。
でも、優しかった。
今までコンナメに合わなかったのは不二君がいつも一緒にいてくれたから。
歩調だって合わせてくれた。
勉強だって、最後にはちゃんと教えてくれた。
セクハラまがいのこともされたけど
いつもそれは誰かがいるトコロで二人きりの時は無かった。
触られる時はすぐ近くに助けを求めれる人をおいていてくれた。
優しかった。
バシッッ
さっきよりも大きく左頬が鳴る。
イタイというかアツイ。
今ので口内を噛んだらしく口の中で血の味がする。
「周助は誰にでも優しいからっ、だからアンタみたいな女と情けでつきあってやったのよ!! 思いあがるのもいいかげんにしなさいよっ」
ステル とか ナサケ とか
この人達 不二君を バカにしてるの?
キッと彼女達を見据える。
落ち着いている自分に正直驚きながら私は口を開いた。
「不二君は優しいけど、情けで人とつきあうような、そんな男じゃない」
不二君は告白されても絶対ちゃんと誠意を持って接していた。
私は知ってる。
あの子の涙を面白がるでもなく、煩わしいと思うでもなく、ちゃんと受け止めて
そして
返事をしていた。それが精一杯の優しさ。
「あなた達、上辺の優しさすら誤解しているの?」
と笑ってやった。
端から見れば私は
さぞイヤな女に違いない。
売られたケンカを倍で買うような行い。
なんで私、こんなにムキになってるんだろう?
テキトウにあしらって、さっさと行くこともできたのに。
でも、できなかった。
不二君を誤解というか、ソンナヤツだと勘違いしている彼女達に心底腹が立った。
バシッ
今度は高らかに右頬が鳴った。
私は殴り返すでもなくただ彼女達を見据える。
この人達をカワイソウだと思う。
告白するでもなく
こんなことでしか、愛情を表現できないなんて。
不二君をスキだから、だから、私が鬱陶しいんでしょう?
あの子も言ってた通り、私が不二君に冷たいって思ってたから
だから私を許せないんでしょう?
「なんなのよ、その目は!」
彼女達のうちの一人の声が震える。
「それが元彼女の余裕? 周助に愛された余裕?」
「……私、愛されてなんかないですよ」
その言葉を言い終わらぬうちにまた頬が鳴った。
その拍子に体が崩れる。
彼女達はヒステリーに何か叫びながら教室を出ていった。
「イタイ…………」
両手で頬に触れてみる。熱い。
そして唇の端から血が滲んでいる。
「ココも切ったんだ……」
とりあえず冷やさなきゃと思い、立ちあがる。
数歩進んで、ドアノブを回す。
が、回らない。
ガチャガチャッッ
ただ音がするだけ。
「うそ……(汗)」
キーンコーンカーンコーン
と無常にチャイムが響いた。
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イイワケは後編でします。
たーんとします。
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