優しさを、間違えた。






■優しい人■








『慣れ』ってこわい。

『慣れ』てしまったから。

この関係に。

ぬるま湯のような、あたたかい関係に。

だから

だから…………


























ケータイの着信画面を見れば『不二周助』
メールの受信画面を見れば『不二周助』


いつにも増して多いコンタクト。


理由は、ふたつ。
私があまり邪険にしなくなったから。
それと、学校ではあまり話さなくなったから。


前はメールがきても無関心。
電話がかかってきても留守電へ。

そんなことをしてた。

でも今は、しなくなった。


どうして?
と、訊かれれば

「嫌い」じゃないから。
話すことは楽しい。
ただ、それだけ。

と答える。






不二くんは優しい。


不二くんは私を『好き』だと言ってくれる。

最初は信じなかった。

『魔王様』の戯れだと思ってた。

けど、違った。

いろいろ、あったから。

不二くんが本当に私を想ってくれてる。それはもう分かってる。


不二くんは、優しい。

私に、返事を強要しない。

「すき?」とはたまに訊いてくるけど、それは「=恋愛」じゃなくて
「傍にいる」ことを許すか許さないかの確認。

「嫌い」と答えれば、拗ねるけど
「普通」と言うまで誰にも分からない、当事者同士にしか分からない距離をおく。

「大っ嫌い」と言った時、不二くんは1度もメールを送ってこなかった。
電話もなかった。

今思えば

たぶん、その時、不二くんは傷ついてたんだと思う。

仲直りしたら笑ってたけど。

たぶん、傷ついてた。

でもそれを絶対表にださない人。


痛かったことすら表に出さない人。


表に出さないから、分からない。


肝心なトコロは分からない。


私はこのままを続けたい。
まだ、ずっと続けていたい。






ねぇ、不二くんは進みたいのですか?








































ここ最近のお昼は何故か屋上で。
しかも
テニス部の方々と一緒にというのが続いていた。

どうしてこうなったかというと、お昼を一緒に取りたがる不二くんに私が「皆と一緒」だったらいいですよ。と言ったから。

これ以上の誤解は避けたい。
そう思っているから。

そのお昼の輪に今週からが加わった。

私のワガママで来てもらった。

だってね、いくら皆と一緒にいても相手は『不二様』だから
皆気をつかって不二くんを私に近づけようとするの。

私が誰かに話しかけても「俺より不二と」こうなるの。

だからに来てもらった。
はどうやら氷帝の跡部さん同様に不二くんの魔力に対抗できるみたいだから。(強い友達を持っててよかった)


最近の私はヘンなんです。

媒体を通したら平気なんです。
メールも電話で話すのも。

でも面と向ってだと、ヘンなんです。

変に不二くんを意識してるのです。

『意識=好き』ではないですけど

ただ

不二くんの顔を見ると

罪悪感がふつふつと……


「どうしてこの頃は僕のこと避けるの?」


そうこう考えていたらズバッと言われました。

皆も薄々は気付いていたでしょうから「イターッ」という顔をしています。
菊丸くんにいたってはお昼ご飯を片付けて退散準備までしています。


さんを連れてくるのをいけないとは言わないけど、お昼はずっとさんにベッタリだし。僕が話しかけても流すし」


「そんなことないですよ」


「…あるよ」


 ああ、今不二くん。
 悲しんでる、傷ついてる?

 表に出さない人だけど

 なんとなく…それくらいは分かるようになりました。


「どうして避けるの? 僕のこと嫌い?」


 違います。
 嫌いじゃないです。

 ただ


「普通ですよ」


 こわい んです。


「じゃあ、どうして?」


「ですから、避けていませんって」


 この関係が

 進むのも

 終わるのも。


「…


名前を呼んだのか、ただ口から零れたのか
私の名を言って、不二くんは笑いました。
いつものように。

周りから見れば、いつものように。

ただ、私から見れば

悲しそうに笑いました。






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