前のように
セクハラしたり、他の男の子といるのを邪魔したり
そんなことをしなくなったのは
私が不二くんの方を少しずつ向きだしたから。
関係を無理に進めようとすれば、引いてしまう。
だからと言って距離を開けすぎては、終わってしまう。
そんな微妙な距離だって――わかっているんだ。
わかってたはずなんだ。
それは放課後のこと。
誰もいなくなった図書室で。
ひとり、カウンターの中で貸出カードの整理をしていると
「ちょっと、いいかな」
不二くんが入ってきた。
「なんですか?」
できるだけ顔を見ないように、
下をむいて、カードに意識を集中させて
「お昼のこと」
「なんですか?」
「やっぱり、は僕を避けてるよ」
「避けてませんよ。そんなことより、部活はいいのですか?」
カードを1枚、また1枚。
めくる。
そのカードがバラバラと机から落ちた。
不二くんが私の左手を取って立ち上がらせたから。
「なにするんですか?」
それでも、顔をあわせないように
カードを拾おうと不二くんの手から私の手を離そうとする
けど
強く握られた手は
離れない。
「離してください。大事なカードがおち」
「お願いだから僕を見て」
左手にすがるように顔をつけ、小さな声でそう言った。
「……」
心臓がつぶれるかと思った。
余裕のかけらもない声。
少しかすれて、やっと出たという感じが伝わる声。
今ここで、不二くんを見なければ
きちんと目を見て離さなければきっとまた不二くんを傷つける。
でも、ここで目を合わせれば
何かが壊れる。
相反するふたつの想い。
私は
後者を選んだ。
「なんですか?」
出来る限りの笑顔で不二くんを見る。
でも決して目は合わさずに
「…」
手は握られたまま。
「、僕じゃダメ?」
「なにがです?」
視線は顔の下半分に
「僕はが好き」
「何度も聞きました」
「本当に、世界で1番が好き」
「ありがとうございます」
「僕じゃダメ?」
それ以上、言わないで
「僕じゃの1番にはなれない?」
「なに言ってるので」
「流さないで」
言わないで
まだ
言わないで
「僕はが好き。ずっと一緒にいたい。手だってつなぎたい」
「今つないでるじゃないですか」
「これは、握る…だよ。
抱きしめたいし、キスだってなんだってしたい。
の1番になりたい」
おねがい
まだ
「好きだよ。好きだ」
まだ
いわないでほしかった。
「私も不二くん好きですよ」
「本当に?」
口調がパァッと明るくなる。
…ごめんね。
「ええ、だって友達ですから」
きっと不二くんにとっては世界で1番残酷な言葉。
それを今私は
言った。