『友達』は『恋人』じゃない。







「友達としては『好き』ですよ。『普通』から昇格です」

精一杯の笑顔で

「もう、こんなこと言ってるヒマがあるのなら部活行かなくていいのですか?」

声のトーンもあげて

「私も委員会の仕事ありますし」

絶対に目は合わさずに

「ね、不二くん」








そっと私の左手が解放された。







急に手の中のぬくもりから空気の冷たさへ移ったから

一瞬

驚いて

反射的に

顔をあげてしまった。





































泣かないで
































実際は泣いていないのに

そう言いそうになる。

そんな表情。










「…昇格か、嬉しいな」

「じゃあ僕は部活に戻るよ」

「じゃあね、

















そう笑う不二くんを見て

私は

泣きそうになった。


こんな表情をさせたのは私。


あんな泣きそうに笑って


無理をさせて


不二くんは優しいから


優しいから


優しすぎるから











図書室から出ていこうとする不二くんの後姿に

無意識に手をのばして、ひきとめようとしたけど

カウンターが邪魔をしてジャージに爪がかすっただけだった。
















このカウンターが今の私と不二くんの 距離 を象徴しているようだった。








































いつもとかわらない朝
いつもとかわらない学校
いつもとかわらない不二くん。


いつものように微笑んで





いつものように名前を呼んで


ただ ひとつ 違ったことは


毎日のように言っていた 好き を言わなくなった。
















この微妙な変化に気付いたのは

乾くんでも大石くんでもなく


以外にも、菊丸くんだった。







ちゃん。不二とにゃんかあった?」

3時間目が終わった休み時間に廊下に呼び出されて、そう言われた。

「何もないですよ」って笑おうと思ったのに


「うわわっ泣かにゃいで!」


顔に笑顔を張り付けたまま、なぜだか私の目から涙がこぼれた。











誰もいないところまで菊丸くんに連れられて
「落ち付いて」とジュースを渡され
それを飲みながらポツリポツリと話した。


「ここ最近の私、どう思いました?」
「変だにゃとは思ってた」
「…やっぱり?……私、こわかったんです」
「にゃにが?」
「不二くんとの関係が進むのも壊れるのも。ずっとこのままがいいって思ってたんです」
「……うん」
「なのに、昨日進んじゃったんです。『好き』って言われました」
「うん」
「関係の進展を望む『好き』に私は……」
「うん」
「『友達』と答えました」
「……うん」
「進むくらいなら戻したかった。このままを続けたかった。でも結局壊しちゃったんですよねぇ」
「うん」
「私、最低な女です」
「うん……にゃ! 違うにゃそんなことないにゃ」
「最低です。だって何度も不二くんを傷つけてる」
「……ちゃんは…どうしたいの? 不二を傷つけたいわけじゃないんだよね? じゃあ、どうしたい?」
「え?」
「『友達』にはなれないと思うにゃ。だって不二はちゃんのこと『特別』だから」
「……」
「このままじゃ…言い方きついけど……このまま『友達』を求めたり『ちゃんの本心』を不二に隠したままじゃ……残酷だよ」
「……」
「あの関係を続けたかったら不二にそう言えばよかった。違う?」
「…そう…です」
「『待って』だったら不二もわかってくれたにゃ」
「そうですよね…不二くんは優しいから」
「…ちゃん…不二が際限なく優しくするのはちゃんだけだよ」
「ほんと…優しすぎるくらい、優しいから」
「……にゃー……。でもね、ちゃん、優しいを…不二の優しいを勘違いしちゃダメだよ?」



どういうことですか?



そう訊こうと思ったときチャイムの音が響いて


「次は移動だったにゃーっっ!!」


菊丸くんは慌てて走っていってしまった。









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