よく
考えて。
菊丸くんの言った意味。
「勘違い?」
口に出してみる。
ノートの端に『勘違い』と書いてみる。
余白が『勘違い』で埋まる。
そんなことをしながら、いろいろ思い出してみた。
ちゃんと思い出すのは久しぶり。
もしかしたら初めてかもしれない。
最初の頃は『ナカッタコト』にしたかった今は大事な『思い出』
出逢いは最悪。
私の恋を邪魔された。
不二くんが邪魔しなかった今頃ラブラブだったはず。
次に思い出すのは勉強を教えてくれた。
ピンチの時、助けてくれた。
幼馴染との久しぶりの時間をポロポロにされた。
拗ねて、学校を滅ぼそうとした。
甘えられもした。
いろんなことがあった。
いつも、なんだかんだで優しかった。
どうして、不二くんは優しくできるのでしょう?
思い返せば私は不二くんに優しくしたことなんてないのに。
自惚れ発言ですけど、私を好きだから?
でも
好きだけで邪険にされても優しくできます?
私だったらできない。
好きな人に好きと言い続け、邪険にされ、優しくなんて1度もされてないのに、その人に
優しくし続けるだなんて。
少しくらい「なんでこの人のこと好きなんだろう?」って疑問に思ったり
「ムカツク」って思ったりする。
不二くんは思わないの?
思ってたよね、ごめんね。
それを、あらわさなかっただけよね?
ああ、そっか…
あらわさなかっただけだよね。
ごめんね。不二くん。
私、不二くんの優しさに慣れて甘えすぎてたね。
これを、このことを『勘違い』と菊丸くんは言ったのですか?
ごめんなさい。
不二くんの優しさ、間違えてたね。
あなたの優しさの裏にはあなたの苦しみがあったよね。
それにずっと気付けなかった。
ごめんね。自分勝手で。
あなたの優しさに甘えすぎていて
ごめんね。
授業が終わると教室を飛び出した。
時間はちょうどお昼休みで屋上に行けばきっとすぐ会える。
そしたら昨日のこと全部謝って、もう少しだけ待っててほしい。と言いたい。
もし、そう言って拒否されたら
それは自業自得。
今まで不二くんに甘えすぎて優しさに慣れ過ぎた残酷過ぎた自分への罰。
バンッ
勢いよく屋上の扉を開けるとそこには
「不二ならいないにゃ」
不二くん以外のテニス部の方々とがいた。
「教室?」
その問いにフルフルと首をふって否定する。
「授業が終わったらふらーっとどっか行っちゃったにゃ」
「…ありがとう。さがしてくる」
クルッと踵を返した私に
「『勘違い』わかった?」
「なんとなく」
短い会話をして階段を駆け下りた。
不二くんの行きそうな所。
まずは中庭へ。
「いない」
テニスコート、部室周辺へ。
「いないよぅ」
1年から3年までの各教室を覗いてまわったけど
いなかった。
急いで自分の教室に戻ってバックの中からケータイをひっぱりだす。
そして『不二周助』へ電話。
いっかい、にかい、さんかい……
呼び出し音が続く。
プッ
「もしもし?!」
『ただいま電話にでることができません。ご用……』
出ない……。
また教室から飛び出る。
どこですか?
どこにいますか?
走って走って走りまわる。
昼休みも半分過ぎた頃、私の足は図書室へ向っていた。
いるはずがない。
そう思いながらドアを開くと
そこに誰もいなかった。
生徒が何人かいてもおかしくないのに。
そう思いふとドアを見ると
『図書委員がいないので今日の使用は厳禁』
の張り紙。
また誰かサボりましたね。
そう思いながら一歩図書室に入ると。
カウンターの影から見える薄茶の髪。
「不二くん?」
名前を呼ぶとパッと頭が上がって
「」
不二くんが顔をだした。
「そこで何してるの?」
「入っちゃダメって書いてあるじゃない」
いつもならこう言うけど、今はこんなことより言わなきゃいけないことがある。
カウンターに近寄って
昨日とは逆の位置で
「不二くん」
今度はちゃんと目を見て
「昨日はごめんなさい」
「?」
「『友達』とか言って逃げて、ごめんなさい」
全部、全部言うの。
「?」
「ほんとの気持ち、言うから……聞いてくれる?」
不二くんは無言で頷いた。
ふぅっと1度深呼吸して
心を落ち着かせて
今 私は どう おもってる?
「『友達』だとは前から思ってた。でもね今は『友達以上』だと思ってる」
だって乾くんや大石くん、皆お友達。
そのお友達にもし抱きつかれたりしてもたぶん「嫌」じゃない。
驚くけど「嫌」ではないの。
ただ何も感じない。
不二くんに抱きつかれた時みたいに過剰な反応はしない。
不二くんには(いろんな意味で)ドキドキする。
でもこれはまだ『恋』とは呼べなくて
「…今までの関係がね、すごく心地よかったの。だから、それに甘えてた。できれば、ずっとこのままがよかったの。だから進むこと、こわくて、逃げちゃった。最低だよね。わかってる。……ごめんなさい」
いっぱい傷つけて、ごめんなさい。
いろんなことに気付けなくて、ごめんなさい。
「『好き』か『嫌い』かで訊かれれば、私ね
不二くんのこと
『好き』だから。
でもまだそれは不二くんと同じ『好き』じゃなくて」
言っているうちに混乱してきた。
私が言いたいこと、たくさんあるうちの1番言いたいこと。
「…でも、これから先はわかんなくて」
ぽんぽん
不二くんの手が私の頭の上に。
「ゆっくりでいいよ。ゆっくり言って?」
そして、そう笑う。
やっぱり、優しい。
「『待って』ほしいの」
この願いもワガママだってわかってる。
不二くんに甘えてるってわかってるけど
これでも
私にしては
前進だから
「もう少しだけ待ってほしいの」
不二くんが私のこと想ってくれてるのはわかってるから。
その想いには、きちんとこたえたい。
「待ってくれますか?」
私の最大級のワガママ。
これ以上、自分勝手なことは言わないから
「うん。ごめんね、僕も焦りすぎたね」
不二くんはにっこり笑って
そう、言ってくれる。
優しい。優しすぎる…よ。
「ごめんなさい」
「いいよ。そんなが好きだから」
ゆっくり
カウンターから出てきて
「いつまでも待つからね」
嬉しそうに微笑んだ。